戦没者の慰霊や平和への思いは、皇室とは切っても切れない関係がある。神道学者で皇室研究家の高森明勅さんは「誰よりも切実に平和を念じておられたのは昭和天皇であり、皇室の方々だったのではないか。そして、その皇室の平和への願いを最もまっすぐに受け継いでおられるのが敬宮としのみや(愛子内親王)殿下ではないか」という――。
桂宮没後10年の墓所祭に臨まれる天皇、皇后両陛下の長女愛子さま
写真提供=共同通信社
桂宮没後10年の墓所祭に臨まれる天皇、皇后両陛下の長女愛子さま。2024年6月8日午後、東京都文京区の豊島岡墓地(代表撮影)

皇室の平和への願い

去る8月15日、終戦記念日。天皇・皇后両陛下には、日本武道館で行われた全国戦没者追悼式にご臨席になり、黙祷の上、おことばを述べられた。

「ここに、戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ、過去を顧み、深い反省の上に立って、再び戦争の惨禍が繰り返されぬことを切に願い、戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し、全国民と共に、心から追悼の意を表し、世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります」

この日、敬宮としのみや(愛子内親王)殿下は例年通り、御所で黙祷を捧げておられる。

「8月」は日本人にとって、今も特別な感慨を抱かせる月であり続けているのではないだろうか。もちろん、先の大戦が終結してすでに80年近くの歳月が流れた。だから世代も移り、記憶も風化をまぬかれないだろう。

それでも普段は日常の忙しさにかまけてほとんど気にかけることもない、「平和」について改めて気持ちを向けさせる何かがあるのではないか。

昭和の戦後時代には、あたかも天皇・皇室が戦争の大きな原因であったかのような見立てが、漠然と多くの人たちに受け入れられていた時期もあった。それが反天皇・反皇室的なムードにつながっていたりもした。

しかし、戦後の歳月に平和が声高に語られる中で、誰よりも切実に平和を念じておられたのは昭和天皇であり、皇室の方々だったのではなかろうか。そして、その皇室の平和への願いを最もまっすぐに受け継いでおられるのが、ほかでもない令和で唯一の皇女でいらっしゃる敬宮殿下ではないだろうか。

愛子さまを詠んだ皇后さまの和歌

たとえば今年の歌会始のお題は「和」だった。そこで皇后陛下は、敬宮殿下の作文について詠んでおられた。

広島を はじめてひて
平和への
深きおもひを 吾子あこは綴れり

このみ歌について、宮内庁は以下のような解説を付けていた。

「愛子内親王殿下には、中学3年生5月の修学旅行の折に初めて広島を訪れられました。広島では、原爆ドームや広島平和記念資料館の展示などをご覧になって平和の大切さを肌で感じられ、その時のご経験と深められた平和への願いを中学校(学習院女子中等科)の卒業文集の作文にお書きになりました。
日頃から平和を願われ、平和を尊ぶ気持ちが次の世代に、そして将来にわたって受け継がれていくことを願っていらっしゃる天皇皇后両陛下には、このことを感慨深くお思いになりました。この御歌は、皇后陛下がそのお気持ちを込めてお詠みになったものです」