天皇陛下が譲られた

この時、天皇陛下がお題の「和」にちなんでお詠みになった3首の中で、「平和」についても詠んでおられた。皇后陛下のみ歌とテーマが重なる。そこで、御用掛ごようがかりで歌人の永田和宏氏が「皇后陛下にお譲りになってはいかがでしょうか」と提案したところ、天皇陛下は「よろこんで」と応じられたという(AERAdot.令和6年[2024年]2月4日、9:00公開)。 

ちなみに、天皇陛下の和歌は次の通り。

をちこちの 旅路に会へる
人びとの
笑顔を見れば 心和みぬ

いかにも「国民の中に入っていく皇室」を心がけておられる天皇陛下らしい御製ぎょせいだった。

愛子さまの中学生時代の作文

では、皇后陛下のみ歌に詠まれた敬宮殿下の作文は、どのような内容だったか。すでにご存じの人もいるだろうが、8月という月に改めて振り返っておきたい。

タイトルは「世界の平和を願って」。一部だけを掲げさせていただく。

この作文に初めて触れる人は、その月並みな綺麗事でない新鮮な切り口に、敬宮殿下の本気さを感じ取り驚くのではないだろうか。

「平和を願わない人はいない。だから、私たちは度々『平和』『平和』と口に出して言う。しかし、世界の平和の実現は容易ではない。今でも世界の各地で紛争に苦しむ人々が大勢いる。では、どうやって平和を実現したらよいのだろうか。何気なく見た青い空。しかし、空が青いのは当たり前ではない。毎日不自由なく生活ができること、争いごとなく安心して暮らせることも、当たり前だと思ってはいけない。なぜなら、戦時中の人々は、それが当たり前にできなかったのだから。日常の生活の一つひとつ、他の人からの親切一つひとつに感謝し、他の人を思いやるところから『平和』は始まるのではないだろうか」

「思いやりと感謝」の原点

中学生とは思えない洞察の深さではないだろうか。

平和を他人事ではなく我が事としてとらえている。その上で、等身大の日常から平和への道筋を真剣に考え抜かれた。

だからこそ、納得感のあるメッセージになっているのではないか。

敬宮殿下は「ご成年に当たってのご感想」(令和3年[2021年]12月1日)の中で次のようにおっしゃっていた。

「日頃から思いやりと感謝の気持ちを忘れず、小さな喜びを大切にしながら……」と。

ここで述べられている「思いやりと感謝」の原点が、すでに先の作文に平和へのスタートラインとして記されていた。「小さな喜びを大切に」というのも、「空が青いのは当たり前ではない」という、広島でのご経験から得られた実感に裏打ちされたお言葉だろう。

カラフルな折り鶴
写真=iStock.com/Martina Rigoli
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