万引きが日常生活の一部になった
サンフランシスコの一角に構える、ドラッグストア大手のウォルグリーンのとある店舗。キャップにジャケット、ナップサックを背負ったどこにでもいそうな長髪の若い男が、取材中のCNNの記者の脇をすり抜ける。
鼻歌交じりに店舗を出て行った男の手には、目立つ蛍光オレンジの商品が数点。CNNの記者が店員に問う。「彼、代金を支払いました?」
レジ係は答えた。「ノー」。あきらめ顔の店員は、男を追う気配すら見せない。
この店舗では相次ぐ万引きに、冷凍ピザなどを販売する冷凍ケースまでチェーンで施錠。訪れた男性客は、「こんなのはおかしいし見たことがない」と困惑すると同時に、「連発する犯罪が私たちの日常生活の一部になった証左だ」と憤る。
CNN記者はこの店舗を取材中のわずか30分間で、万引きと思われる事例を3件も目の当たりにしたという。
Appleストアを好き放題に荒らすiPhone窃盗団
このような事例が、ここ数年のサンフランシスコでは当たり前に見られるようになった。全米大手紙のUSAトゥデイは、小売業の困窮を伝える。記事によると大手小売店・ターゲットのブライアン・コーネルCEOは、窃盗被害により同社の今年の利益が、昨年比で5億ドル(約760億円)以上減少する見込みだと表明した。
窃盗は高額商品にも及ぶ。2022年11月には、感謝祭翌日のブラックフライデーの昼下がり、カリフォルニア州パロアルトのAppleストアで大がかりな窃盗事件が起きた。二人組の窃盗犯が無防備な状況につけこみ、3万5000ドル(現在のレートで約530万円)相当の商品を盗むという事件だ。
震え上がる顧客と店員を前に、犯人たちは何ら抵抗を受けることなく、陳列棚を好き放題に荒らしている。iPhoneやノートパソコンのMacBookシリーズなどを持ち去った。Appleストアのスタッフの一人は、顧客をかばおうと前に立ちはだかり、犯人と距離を取っている様子が映像に残されている。
犯行のあった現場から流出したビデオがオンラインで広まっており、覆面を被った窃盗犯たちが商品を持ち去る様子が確認できる。警察によると犯人は2人の男性、十代後半から20代前半だったという。
ニューヨーク・ポスト紙によると同店は2018年にも、24時間以内に2度の窃盗被害に遭っている。この際の被害額は合計10万ドル(同約1500万円)以上にのぼった。