パンデミック、失業、家賃高騰…中心街から人が消えた理由

州法に加え、パンデミックで空洞化した中心部の治安悪化も万引き増加を誘った。サンフランシスコの黄金時代を目にしてきたウォール・ストリート・ジャーナル紙のジム・カールトン記者は、悲しげに語る。

「パンデミック前のサンフランシスコのダウンタウンは、まさに賑やかでした。私の職場はカリフォルニア・ストリートなのですが、とにかく人がごった返していました。まるでマンハッタンのようだったのです。まさに黄金の街だった」

ところが、パンデミックですべてが一変したという。

「この4年間、サンフランシスコのダウンタウンはひどい状況に見舞われました。ひとつには、住居費の高騰によって、多くの労働者が何マイルも離れた場所で働かざるを得なくなったことがあります。また、サンフランシスコはテクノロジー産業が集中していますが、こうした産業は他のどの産業よりもリモートワークの影響が大きかった」

パンデミックによる失職と家賃高騰で、かねて存在したホームレス問題やドラッグ中毒者もいっそう目立つようになり、治安は目に見えて悪化していったという。

明け方のサンフランシスコの金融街
写真=iStock.com/Takako Phillips
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「万引き犯は射殺せよ」過激な主張も

もはやモラルに訴えるだけでは、改善は見込めない。スーパーの入店を会員制にすべきとの意見から、果ては万引き犯を射殺せよとの過激な意見まで、さまざまな対策案が出ている。

ニューヨーク・タイムズ紙は、ドナルド・トランプ元大統領が万引き犯は射殺すべきだと発言し、物議を醸したと報じている。

アナハイムの高級ホテルのホールに集まった大勢の支持者たちを前にトランプ氏は、「要は、店を強盗する場合、店から出るときに撃たれることを十分に予想すべきだ」と演説。発言を受けて支持者たちは大いに盛りあがったという。

他方、元サンディエゴ警察予備役警官のマーク・パウエル氏は、大規模な万引きを防ぐために各店は会員制モデルを採用するべきだと唱える。

カリフォルニア州の地方紙、タイムズ・オブ・サンディエゴに対してパウエル氏は、入店時に身分証明を要求することで、窃盗の抑止に効果があるとの考えを示した。

全米各地で大手小売業者の店舗が、窃盗による損失を理由とした閉鎖に追い込まれているとパウエル氏は指摘。その一方で、会員制を取り入れているコストコでは在庫損失に大きな変動がないという。すなわち、会員制モデルが万引き防止の手段として機能している、と氏は指摘する。

警察の対応が追い付いてない

警察も手をこまねいているわけではない。サンフランシスコ・クロニクル紙は11月30日、覆面警官のチームが小売チェーン店のターゲットで「電撃作戦」を実施し、17人の万引き犯を一斉に検挙したと報じている。サンフランシスコ警察によると、過去18カ月間で同様の作戦を40回実施しており、計300人を逮捕している。