テック業界に限れば、さらに進んだ対策が実現している。昨年9月、東海岸・フィラデルフィアのAppleストアをフラッシュロブの若者たちが襲撃し、発売されたばかりのiPhone 15のデモ機を大量に持ち去った。だが彼らがiPhoneを使えることはなかった。
窃盗団が盗んだiPhoneはストア外に持ち出されたことを検知し、自動的にロック状態となった。iPhoneからはアラームが大音量で鳴り響き、画面には「このデバイスは無効になっており、追跡されています。Appleウォルナット・ストリート店に返却してください」との警告が表示されている。操作は一切受け付けない。
さらに、ネット上に流出した動画によると、窃盗団が手にしたこれらiPhoneの画面上部に、緑色のマークが点灯している。カメラが使用中であることを示しており、犯人たちの顔が遠隔で監視または録画されているとみられる。
この件に関し、米CW系列フィラデルフィア局によると、50人以上が窃盗などの容疑で逮捕された。テクノロジーが悪質な万引き犯たちに勝利した事例となった。
サンフランシスコが輝きを取り戻すには時間を要する
サンフランシスコは深刻な現状に面している。パンデミック後の社会的・経済的な変化により、愛された都市の顔はすっかり様変わりした。治安は劇的に悪化しており市民生活への影響は深刻だ。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、サンフランシスコ市のロンドン・ブリード市長は強気だ。「私たちが知っているサンフランシスコのダウンタウンは、もう戻ってこない。だが、それは問題ではない」と言い切る。区画再整理とAI産業の誘致で新たなサンフランシスコを築くのだ、と彼女は力説する。
ウォール・ストリート・ジャーナルのカールトン記者も、ブリード市長の意見に賛同している。「“地獄の穴”とまで形容されるサンフランシスコだが、そういう地域はごく一部だ。この街は依然として“美しい都市”だ」と述べた。
しかし、解決は容易ではない。パンデミックを機に悪化した治安だが、パンデミックをほぼ脱した現在でも影響は続く。万引きのみならず、ホームレスの増加やドラッグ中毒の蔓延などが重なり、街を歩くにも危険を感じる状況だ。市内への通勤者からは、もはや「ゾンビの街」と化したとの嘆きも聞かれる。
一方、サンフランシスコはコンピュータ産業の黎明期を支えたシリコンバレーにも比較的近く、現在もUberやX(Twitter)、Airbnbなど世界に名だたるテック企業が本拠を構える。今後はAI産業を積極的に呼び込むことで、市としてはかつての栄光を復権したい考えだが、変化は一夜にして起こるものではない。
かつて黄金の町と称されたサンフランシスコが再びその名にふさわしい街となる日は、もう少し先の話かもしれない。