世界はカーボンニュートラルに舵を切った。日本はどんな影響を受けるのか。経営戦略コンサルタントの夫馬賢治さんは「世界全体の雇用は増える。だが、日本はこのままだと『自動車』や『電力・エネルギー』に携わる人たちの雇用が大量に失われる」という――。

※本稿は、夫馬賢治『データでわかる2030年 雇用の未来』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。

自動車工場
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世界で「巨大な産業革命」が始まった

2015年に採択されたパリ協定では、目標は大幅に引き上げられた。世界全体で、2050年までにカーボンニュートラル、すなわち人間の経済・社会活動が排出する量と、大気中から吸収する量のプラスマイナスでゼロを目指すことが決まった。

中間目標は各国政府が自主的に設定して提出するというルールになっており、日本政府は「2030年までに2013年比46%減」という目標を掲げ、国連に提出した。京都議定書の時代の1990年比6%減と、パリ協定の時代の2013年比46%減(=1990年比40%減)は、雲泥の差だ。

2050年にカーボンニュートラルを目指すことを、すべての国連加盟国が合意している。すなわち、先進国の大企業だけでなく、発展途上国の中小企業でも、貧しい家庭でも、ありとあらゆる排出源で、排出量を極限まで削減するということに合意しているということだ。

温室効果ガス排出量を削減するという話題になると、「個々人でできる努力には何があるか」という話になりがちだが、残念なことに個々人でできることはたかが知れている。国際機関は、二酸化炭素の排出量をゼロにするための策を包括的に分析しているのだが、個々人の行動の変化で削減できる割合はたかだか数%しかなかった(1)

残りの90%以上は、電気やガス、ガソリン、製品原料、農作物原料を生産する際に出ている排出量を、企業が産業革命によって新たな技術を開発しゼロにしていくしかない。それ以外に達成の道はないということだ。

こうして、中小企業も含めて、産業のカーボンニュートラル化という巨大な産業革命を起こしながら事業を継続していくことが世界の共通目標となった。

国内106万人の「電力」「自動車」の雇用に影響

エネルギー革命による雇用影響を大きく受けるのは、電力・エネルギー関連の企業と自動車等輸送機器のメーカーで働いているエンジニア及び生産・作業現場の人たちだ。

日本では、「電力・ガス・熱供給・水道」の業種には30万人が勤務しており、そのうちエンジニア職(専門的・技術的職業従事者)が5万人、生産工程従事者が1万人いる。

また、輸送機器関連メーカーには135万人が勤務しており、そのうちエンジニア職(専門的・技術的職業従事者)が20万人、生産工程従事者が80万人いる。合計すると日本では106万人が影響を受ける対象となる。

こうして見ると、電力・エネルギー関連企業よりも、輸送機器関連メーカーのほうが雇用影響がはるかに大きい。

エネルギー革命が雇用に与える影響に関する研究は、海外のほうが進んでいる。まず、エネルギー革命で、世界全体の雇用は増えるのか、それとも減るのか。エネルギー問題を所管する国際機関の国際エネルギー機関(IEA)が出した結論は「雇用は増える」だ(2)

図表1はエネルギー革命による雇用数の増減を表している。棒グラフが2つあるが、薄いグレーの棒は「NZEシナリオ」といって、2100年までに気温上昇を1.5℃に止められるよう、早くから本格的な削減を開始して、2050年にカーボンニュートラルを達成する理想のシナリオのケースだ。