スキルアップと給与が上がる機会にもなる
では、再生可能エネルギーやEVで生まれる雇用に就ける人はどのような人なのだろうか。
例えば、バイデン政権が打ち出しているインフレ抑制法が創出する雇用は、2030年までに150万人以上と見通されており(6)、そのうち建設・保守労働者と工場労働者が大半を占める(7)。残りが研究開発やエンジニア関連の職だ。
一般的には、石油・ガス生産や内燃機関自動車の分野に従事している人が、横滑りしてこれらの職に移ることが想定されている。
だが、新たに生まれる再生可能エネルギーやEVなどでの産業では、従来の高スキルを要する仕事よりも給与水準が下がりやすい傾向にある。そのため、研究開発、設計、工場労働者のすべての職種で、給与を下げてまでも新しい職に移ろうという人は多くはないかもしれない。
そこで着目されているのが、エネルギー以外の業種からのスキルアップによる転職だ。
例えば、太陽光発電の設置作業員は、通常の屋根工事作業員や、電気設備作業員よりも給与が40%も高いというデータがある(8)。またアメリカでは、エネルギー業種は、他業種に比べ昇給率が高く、他業種の人にとっても魅力的な職場になっているという調査結果もある(9)。
こうして、エネルギー業種以外の低所得者にスキルを身につけてもらい、新たに創出される雇用の担い手になってもらうということが労働政策の本丸として位置づけられている。
「石油・ガス」「自動車」の企業で働く若手はどうすべきか
では、石油・ガスや内燃機関自動車の仕事に現在従事している人はどうすればよいのだろうか。重要な点は、年齢によって受ける影響が異なるということだ。
仕事が減っていくと言っても、急にすべての仕事がなくなるわけではない。一般的に雇用の分野では、高齢で引退する人が徐々に発生する「自然減」というものがある。
高齢の従業員に関しては、スキル転換のハードルが高いこともあり、定年まで現在の仕事を続けてもらい、自然減をしていくことが理想だ。例えば、その仕事があと15年間はなくならないのであれば、定年が65歳と仮定すると、現在50歳以上の人は定年まで現状の仕事が続けられることになる。
日本の電力市場に関する研究では、再生可能エネルギーへの転換を進めることで、特に再生可能エネルギーのポテンシャルの大きい北海道や東北地方で多くの雇用が生まれると予想されている。
北海道や東北地方は、これまで雇用創出で大きな課題を抱えていた地域であり、これは朗報と言える。
半面、火力発電所や原子力発電所での新規採用をいままでのペースで2025年まで継続した場合、従業員の自然減では余剰人員が出てしまう計算となる。そのため、早期に見通しを立て、新規採用を抑えていく雇用政策が推奨されている(10)。
これらの業界にいる若手や中堅の人たちは、給与水準を下げたくないのであれば、別の業種への転職を検討する必要も出てくるだろう。
特に中堅の人たちにとっては、せっかく習得したスキルを手放す怖さもあるかもしれない。しかし、先を見越して、いまのうちから準備しておくことが賢明な選択だ。
*出典
1 International Energy Agency (2023) 「Net Zero Roadmap: A Global Pathway to Keep the 1.5°C Goal in Reach - 2023 Update」
2 International Energy Agency (2023) 「World Energy Employment 2023」
3 Climate Action Tracker (2023) 「Temperatures」
4 前掲書
5 前掲書
6 The White House (2023) 「FACT SHEET: One Year In, President Biden’s Inflation Reduction Act is Driving Historic Climate Action and Investing in America to Create Good Paying Jobs and Reduce Costs」
7 Energy Futures Initiative & AFL-CIO (2022) 「Inflation Reduction Act Analysis: Key Findings on Jobs, Inflation, and GDP」
8 International Energy Agency(2023)「World Energy Employment 2023」
9 前掲書
10 栗山昭久(2019)「日本の電力部門の脱炭素化に向けた公正な移行は可能か?」