※本稿は、夫馬賢治『ネイチャー資本主義』(PHP新書)の一部を再編集したものです。
「地球の限界」をめぐる絶望と希望
私たちは、絶望と希望の間の瀬戸際にいる。世界の人口が増え続ける中、今の状態で「誰一人取り残されない」を実現しようとすることは非常に難しい。今でも地球の限界を遥かに超えているのに、さらにオーバーヒートを起こしていくことになる。
その半面、プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)問題のうち気候変動分野での合言葉「カーボンニュートラル」、残り8つの環境課題をすべてまとめて限界値以内に抑えようとするスローガン「ネイチャーポジティブ」という概念が徐々に広がり、GDPを伸ばしながら環境負荷を減少させる「絶対的デカップリング」の実現という希望も見えてきた。
プラネタリー・バウンダリーを提唱したロックストローム教授が切望しているように、あとはこれをやりきるだけという方向性がはっきりしてきている。
だが前途は多難だ。まずカーボンニュートラルとネイチャーポジティブの重要性について、依然として知らない人があまりに多すぎる。認知が広がる速度は全く十分なものではない。なかなか認識が広がらない中、SDGsや環境問題は「陰謀論」という主張まではびこる時代になってきた。
せっかく人間社会は、絶対的デカップリングを実現しつつあるのに、陰謀論によって希望の扉は再び閉ざされようとしている。いまここで未来への舵取りを間違えれば、むしろ逆行していくおそれさえ出てきている。
膨大な資金をどこから調達するか
EUの「欧州グリーンディール」でも、アメリカの「グリーン・ニューディール」でも、必ず政策の柱として民間金融の活用が位置づけられている。つまり資本主義の仕組みを活用していこうとしている。
その理由は、政府としてカーボンニュートラルやネイチャーポジティブという政策目標を達成しようにも、政府予算だけでは財源が全く足りないからだ。OECDは、SDGsの達成には世界全体で年間3.5兆ドル(約465兆円)の資金が不足していると発表している(*1)。
(*1)OECD (2021)“Financial Markets and Climate Transition: Opportunities, Challenges and PolicyImplications”