私たちの年金を管理、運用しているのが政府系年金基金GPIFだ。経営戦略コンサルタントの夫馬賢治さんは「GPIFは世界最大の年金基金で、株式運用の累積収益は100兆円超に上る。GPIFのような機関投資家の運用資産は個人投資家とは桁外れの規模で、株式市場のメインプレイヤーとなっている」という――。(第2回)
※本稿は、夫馬賢治『ネイチャー資本主義』(PHP新書)の一部を再編集したものです。
マルクス時代の資本家と現在の資本家の違い
資本家を巡るここまでの展開は、まさに私たちがイメージする「資本主義」に近いだろう。強欲な富裕層がマネーゲームで投資を行い、短期的な利益を追求し、そして市場が暴落するときに、いつも痛みを被るのはマネーゲームを始めた富裕層ではなく一般市民だ。
こんなものを野放しにしていていいはずはない。私たちは資本主義を葬り去らねばならない。このような考え方が出てきても全く不思議ではない。だからこそ、いつまでもマルクスの影がちらつくのだ。
だが、カール・マルクスが生きていた時代の資本家の像と、現在の資本家の実状は、あまりにも違う。その変化を理解しないまま、今の時代の資本主義を正しく理解することはできない。では、なにが変わったのか。それは「機関投資家」と呼ばれる存在が登場したことだ。
「他人資産」を保有する機関投資家
機関投資家とは、年金基金、保険会社、運用会社の総称のことで、大量の資金を使って株式や債券での資産運用を行う大口投資家のことをいう。機関投資家が保有している資産は、基本的には自己資産ではなく「他人資産」だ。
年金基金では年金加入者の掛金、保険会社では保険加入者の掛金がそれぞれ運用資産となっている。資産運用会社が運用している資産には、年金基金や保険会社から資産運用を一任される形で預かっている資産と、投資信託の運用の形で個人投資家から預かっている資産がある(*1)。
(*1)実際には信託分離制度により、運用会社ではなく信託会社が資産の管理を代行していることが一般的で、運用会社が資産そのものを預かっているわけではない。運用会社は資産売買の指図を行っている。