なぜ環境問題が深刻化しているのか。経営戦略コンサルタントの夫馬賢治さんは「産業革命が原因とする指摘は正確ではない。1850年から世界人口は6.7倍に増加しており、人間が増えれば当然、食料やエネルギー、社会インフラの消費が増え、環境負荷も増加する」という――。(第1回)

※本稿は、夫馬賢治『ネイチャー資本主義』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

持続可能なコミュニティーの概念
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産業革命と環境破壊に因果関係はあるのか

「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」は、数多ある環境問題を9つに分類し、どのぐらい危機的な状況なのか、地球が耐えられる限界値を基準に可視化したものだ。これによって、なんとなく言われている環境問題が、どの分野でどの程度切羽詰まっているのかが理解できるようになった。

【図表1】プラネタリー・バウンダリー
プラネタリー・バウンダリーの図。生物地球化学的循環(窒素、リン)と生態系の一体性(絶滅の速度)が高リスクと評価されている(出所=『ネイチャー資本主義』)

しかしこれは、産業革命以降に環境負荷が限界値を超えてしまったというタイミングを示しているだけで、因果関係までは語っていない。そのため、本来、プラネタリー・バウンダリーのデータから、「産業革命(=資本主義)が環境破壊を引き起こしている」と単純に解釈することは統計学的にはできない。因果関係に迫るには、他のデータもみていかなければならない。

実際、産業革命以降の人間社会は、他にも大きな変化を経験している。その代表格が、人口増加だ。気候変動の議論では、「産業革命期」を1850年から1900年の50年間と定義している。

第二次大戦後、発展途上国の人口が急増

では、産業革命期の始めの1850年に世界人口は何人だったかというと、12億人だった。一方、まもなく世界人口は80億人に到達しようとしているので、産業革命の開始時期と比べて人口は6.7倍にまで増えたことになる。

世界の人口は、産業革命期を過ぎた1900年代に増加率の上昇が始まる。とりわけ人口が増加したのは、第二次世界大戦の後だ。なぜこれほどまでに増えたかというと、戦後に発展途上国で人口が急速に増加したからだ(図表2)。

【図表2】世界人口の推移
世界人口の推移。1950年頃から発展途上国の人口が急速に増加している(出所=『ネイチャー資本主義』)

先進国の人口は未だに13億人程度で、すでに横ばいになっている。一方で、発展途上国では、戦後の15億人ほどから65億人にまで増えており、これからも増え続けていく。世界の人口の大半は、発展途上国にいるのだ。