すると、出生率はそれほど変わらないのに、今までは死亡していた乳幼児が死亡しなくなるので、家族あたりの子供数が急に増えていく。このタイミングでは、人口爆発期とでも呼ばれる社会情勢となり、労働人口も消費も旺盛になる。この期間のことを「人口ボーナス」と呼ぶ。日本では1960年から1990年頃が人口ボーナス期にあたる。まさに日本が高度経済成長を迎えていた時代だ。
先進国のほうが早く少子化が進む理由
一方、経済成長を迎えると生活文化も変容していく。教育機会が増え、男性も女性も社会進出が進むと、結婚や出産のタイミングは遅くなる。そして家族計画の考え方も変わり、かつてほどは出産をしなくなっていく。こうして乳幼児死亡率に遅れて出生率は下がり、人口増加率は再び低下していく。発展途上国よりも先進国のほうが早く少子化を迎えるのはそのためだ。
ちなみに、人口ボーナスと呼ばれる経済成長期は、乳幼児死亡率の減少から少し間をおいてやってくる。理由は2つある。まず、数が増えた乳幼児たちが成人し、労働力が増加することでようやく経済が活性化するからだ。そして、出生率が減少し、少ない子供に親が集中的に教育支出をすることで、子供の教育水準が上がっていくことが2つ目の理由。
高い教育を受けた労働力が増加し、経済の好循環が発生するためだ。このように人口ボーナスは、単に人が増えることで発生するのではなく、次世代への教育投資が増え、労働生産性が上がっていくことが重要となる。
人口が6.7倍になれば、地球の資源も6.7倍必要
そのため、死亡率が減少しても、人口ボーナスと呼ばれる急速な経済成長を迎えず、発展が遅れたままの状態になってしまう国もある。人口ボーナスが発生する真の条件は、教育の質と労働生産性の向上。すなわち、教育の質および労働生産性が向上しなければ、たくさんの乳幼児が成人しても、高度労働力の供給や消費の拡大につながらず、経済が好循環を迎えることはない(*1)。
産業革命による技術発展は、乳幼児死亡率の減少という大きな成果をもたらした。人道の観点からは、このことは称賛されるべきだろう。しかし、人が増えれば当然、生活する場所も、食料も、エネルギー、社会インフラも必要になる。仮に今も産業革命前のライフスタイルが続いていたとしても、人口が6.7倍になった人間社会は、単純計算で地球の資源を6.7倍も使わなければいけない状態となっている。
(*1) Kua Wongboonsin, et al. (2005)“The Demographic Dividend: Policy Options for Asia”