太平洋のツバル諸島は温暖化による海面上昇で国土が沈没する危険があるといわれてきた。ところが、それには誤解があるという。森林ジャーナリストの田中淳夫さんは「ツバル諸島は115年前から32ヘクタールも面積が拡大している。海面は上昇しているが、それよりも人口増加と環境汚染という『ローカルな要因』で国土の危機が起きている」という――。

※本稿は、田中淳夫『虚構の森』(新泉社)の一部を再編集したものです。

南太平洋に浮かぶツバル。海面上昇に伴う水没も懸念されている(ツバル)
写真=dpa/時事通信フォト
南太平洋に浮かぶツバル。海面上昇に伴う水没も懸念されている=2009年05月01日、ツバル

氷が溶けるより重要な「海水の膨張」

海面の上昇と言えば、温度上昇で南極やグリーンランドなどの陸氷が溶け、海の水が増えることをイメージする。

だが、それ以上に重要なのは、海水の膨張である。

水は、温度が上がると体積が増える性質がある。気温とともに水温も上がると、水の量が増えたのと同じ効果となり、海面を押し上げる。

実際に大洋(太平洋、大西洋、インド洋)の多くの島国では、海面上昇を感じさせる現象が頻発している。

実例としてよく挙げられるのは、砂浜が痩せ細り、海岸に生えていたヤシの木が波によって倒れたとか、住居のすぐ側まで波が打ちつけるようになった……といったものだ。

住民が波打ち際に立って足を海水に浸しながら「以前はここまで陸地だったんだ!」と訴えるシーンが、よくテレビで放映されている。

島民の生活に直接的な影響を与える事例も多い。

たとえば生活用水として使う井戸水が海水混じりになってきた、大潮のときに、内陸部で海水が噴き出した、沖合いの小島が消えた、といった報告もよくある。

「ツバル諸島の面積」実は増えていた

海面上昇問題で有名になったのは、南太平洋の島嶼国家ツバルだろう。

国土のほとんどが海抜1~2メートルしかない珊瑚礁の島々であり、海面上昇によって国全体が水没の危機にあるとされている。

このまま海面上昇が続けば、国土そのものがなくなり、国民は行き場を失いかねない。

そこで2002年にツバルは、大国や大企業は地球温暖化ガス排出量の抑制や削減に不熱心で、ツバルを沈没の危機にさらしている、と大国を提訴すると表明したこともある(実際には提訴は困難と判断して中止した)。

一方で、オーストラリアとニュージーランドに環境難民の受け入れを要請した(こちらも拒否されて、ニュージーランドに労働移民として少人数受け入れられただけ)。

ツバルはどうなるのか……。先のテレビ映像を見ていた人は、そんな心配をするだろう。

だが、ここに意外な事実がある。ツバルの面積を調べたところ、逆に増えていたのだ。