中国の経済成長が日本人の健康にに大きな影響を及ぼしている恐れがある。森林ジャーナリストの田中淳夫さんは「経済成長にともなう開発により、中国で草原の砂漠化が進み、黄砂の被害が深刻化するようになった。植林は余計に乾燥を悪化させるので、対応が難しい」という――。

※本稿は、田中淳夫『虚構の森』(新泉社)の一部を再編集したものです。

黄砂でかすむ福岡市街。右は福岡タワー=2021年3月29日
写真=時事通信フォト
黄砂でかすむ福岡市街。右は福岡タワー=2021年3月29日

年間約200万トンの砂が日本にやってくる

風が吹けば桶屋が儲かる……という言葉は、風で土が舞うことからスタートする。だが、日本では土が剥き出しのところは少なくなり、また湿っていると土が舞い上がりにくいから、あまり土埃が舞い上がる光景を目にすることはない。

だが世界では風の影響も侮りがたい。とくに乾燥地帯では風によって土が舞い上がり運び去られてしまう。アフリカから中近東にかけての砂漠や、その周辺のサヘルと呼ばれる乾燥地帯では、貿易風や偏西風によって莫大な土が運ばれている。

そしてアジア大陸でも、風による深刻な土壌消失が起きている。

その一つが、黄砂だ。

黄砂は文字どおり黄ばんだ微細な砂だ。春先に中国大陸奥地から季節風(モンスーン)に乗って日本に飛来する。日本では春霞として知られ、洗濯物や車のフロントガラスに付着して汚す。

あまり有り難くはないが、同時に季節の風物詩にもなっている。

だが、舞い上がる砂の量たるや年間で500万トンにも達し、その3分の1から2分の1が日本列島に降下しているという。大雑把に言って200万トン前後の砂だから、凄まじい量だ。

これも日本の土になっていると言えなくもない。

喘息ぜんそくの原因に

この黄砂の害を、あまり過小評価しない方がよい。

とくに最近指摘されるのは、人体の健康への影響だ。

なぜなら日本に届く粒子は、非常に小さい(3~4μm)から肺の奥にまで入りやすいのだ。

また黄砂が日本まで飛んでくるのは、主に3~5月。これはスギとヒノキの花粉症の時期ともろにかぶる。

黄砂自体がアレルギー症状を引き起こすと言われるほか、花粉症などと重なることで悪化させる可能性がある。