日本の地方部で太陽光発電所の建設が止まらない。すでに日本には世界3位の発電能力があるが、太陽光パネルや架台は建築基準法の対象外で、設置基準すらあいまいなままだという。これ以上増やす必要はあるのか。元産経新聞記者の三枝玄太郎さんがリポートする――。

※本稿は、杉山大志(編集)、川口マーン惠美、掛谷英紀、有馬純ほか『「脱炭素」が世界を救うの大嘘』(宝島社新書)の「メガソーラーの自然破壊と災害リスク 報道されない『太陽光発電』の暗部」の一部を再編集したものです。

ソーラーパネル
写真=iStock.com/xijian
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自宅周辺で「なぜトイレのような臭いがするの?」

2021年7月3日、静岡県熱海市伊豆山。日本列島に梅雨前線が停滞していた。当地の降水量は午後3時20分まで48時間雨量で321ミリに達し、伊豆山地区では7月の観測値としては過去最高の雨が降っていた。伊豆山に住む50代の女性は、前夜からある異常を感じていた。自宅の周囲で、鼻につく汚物のような臭いが漂っていたのだ。

「誰か、変なものを捨てたの? なぜ、こんなにトイレのような臭いがするの?」

数日前から「パン、パン、パン」という山鳴りが聞こえるのも気味が悪かった。家族と「何なんだろうか」と話していたが、原因がわからない。

7月3日の午前10時半ごろ、目の前にあるはずの家が2軒、なくなっているのに気づいた。家を出てみると、大量の土砂が家のそばを流れていた。近くに住む親類に電話をすると、その家も流されていた。身支度をしてほうほうのていで自宅から逃れた。

最も大きな土石流は、その直後に起きた4回目のものだという。赤い3階建てのビルをかすめながら大量の土石流が下流域に流れていった。初期の土石流に対応するため現場に集まっていた消防関係者が逃げ惑う姿がニュース映像として放映され、衝撃を与えた。

この証言をした女性の家も土石流に流されこそはしなかったが、かなりのダメージを受け、8月末時点でも家には住めない状態が続いている。

太陽光発電所の建設で森の保水力が失われた

死者・行方不明者が28人(2021年8月末時点)にも及んだ熱海の土石流は自然災害だったのか。調査が進むにつれ、この土石流は人災どころか“殺人”といわれても仕方がないような実態が明らかになってきた。

静岡中央新幹線環境保全連絡会議の地質構造・水資源専門部会の委員を務める地質学者の塩坂邦雄氏は「尾根部の開発(太陽光発電施設の建設工事)を行い、今まで保水力のあった森がなくなったために(雨水が)流出したんです。

悪いことに(太陽光発電所への)進入路があるので、ここがといのようになって(土石流の起点に)水がたまって、水が全部ここ(盛り土)に来ちゃった」との見解を示している(2021年7月6日テレビ朝日のニュース)。塩坂氏は地元紙・静岡新聞にも同様の見解を述べている。