「再エネ」「EV」転換は賃金が下がるリスクも

雇用の影響を検討する際には、雇用数という量の話だけでなく、「賃金」という質の話も重要だ。次に賃金への影響をみていこう。

石油・ガス生産や内燃機関の分野は、高度な技術を要するため、もともと給与水準の高い仕事が多い。例えば、大卒資格を必須とする雇用割合は、原子力発電で53%、石油・ガス生産で46%と比較的高いが、太陽光発電では34%にまで下がる(4)

大卒資格を必要とする仕事は、研究開発や設計等のホワイトカラーの職種に多い。一方、必要としない仕事は、工場労働者や保守業務に携わる人に多い。

発電所の建設に関わる技術者についても同じことが言える。火力発電や原子力発電のプラントエンジニアは、太陽光発電の施工管理の仕事に比べて、給与水準が高い傾向にある(5)

今後新設される発電所が、火力発電から再生可能エネルギーに移行していくと、給与水準の高い仕事が減っていく可能性が高い。

EV関連では、雇用に与える影響はやや複雑になる。EVは、内燃機関自動車よりも部品点数が少なく、構造もシンプルなため、研究開発や製品設計に関する仕事の数は減少する見込みだ。

一方、EVの車両設計者は、経験者が少なく、需要に対して供給が追いついていない状況だ。そのため、車両や部品の設計者については、内燃機関自動車よりもEVのほうが、給与が上がる可能性もある。

工場労働者に関しては、EVのほうが生産ライン完成からの年数が短いため、経験の浅い人が多い。そのため全体的に給与水準が下がる傾向にある。

電気自動車の充電
写真=iStock.com/UniqueMotionGraphics
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「EV」で給与水準の引き上げを求めたストライキ

実際に、アメリカでは2023年9月15日に、全米自動車労働組合(UAW)が大規模なストライキを起こしたが、その際に、EVやEVバッテリーの工場で働く工場労働者の給与水準の引き上げも争点となった。

このストライキは、フォード、ゼネラル・モーターズ(GM)、ステランティス(クライスラーとフィアットが合併)の自動車大手3社に対し、過去数十年で最大規模のストライキとなった。

もともとの要求事項は、3社のCEOの給与が過去4年間で約40%も上昇しているのに対し、工場労働者の給与はほとんど上がっておらず、従業員平均で約40%の昇給を求めるというものだった。

それに加えて、既存の内燃機関自動車の工場では、労働条件や福利厚生である程度の待遇が保証されているのに、他社と合弁で設立したEV工場やバッテリー工場は待遇が低く、同条件での待遇を求めるという要求も盛り込まれていた。

UAWのストライキは、労働組合側のほぼ全面勝利となり約20%の賃上げで合意。ストライキは2023年10月30日に収束した。