※本稿は、西村則康『「受験で勝てる子」の育て方』(日経BP)の一部を再編集したものです。
「親の顔色を伺う子」は伸び悩む
中学受験のプロ家庭教師として、長年たくさんの家庭を訪問していると、最初の訪問でその子がこれまで家でどんなふうに過ごしてきたかが、おおよそ分かってくるものです。
私は家庭訪問で指導するときには、必ず親御さんに同席をお願いしています。プロの指導を見せることで、今後の家庭学習の参考にしていただきたいからです。それともう一つ、これはご本人にはお伝えしていませんが、親御さんのお子さんへのかかわり方を見るためです。
例えば算数の問題を解いていたとき、その子が立てた計算式について「本当にこの式で計算したら答えが出そう?」とわざと聞いてみることがあります。すると、家でのびのびと過ごしてきた子は「うん、大丈夫! 絶対そう」と自信を持って答えます。それに対し、こちらが尋ねた瞬間に横にいる親御さんの顔をチラッと見て、表情が険しいのを感じると自信がなさそうに下を向いてしまう子もいます。こういう振る舞いを見せる子は、普段から親御さんの顔色をうかがって勉強したり、いい子を演じたりしています。
中学受験で伸び悩むのは、まさにこの手のタイプの子です。親御さんが教育熱心で過干渉なばかりに、小さい頃からあれこれ言われて、自分に自信が持てなくなっているのです。
チャレンジする心を育む「なごやかな親子関係」
約3年以上に及ぶ受験勉強生活の中で、膨大な数の問題に挑んでいきます。それらの問題を解くときに不可欠なのが、自分ならきっとできるはずと思える「自信」と、知らないことを知るのは楽しいと思える「好奇心」。そして、その心の支えとなるのが、「なごやかな親子関係」です。
子どもにとっての安全で安心できる環境では、お父さんとお母さんがたいてい機嫌良くしています。「なごやかな親子関係」には、なごやかな親子の会話があります。家庭の中がそういう雰囲気であれば、子どもは親の顔色をうかがわずに、思いのまま話すことができます。おかしなことを言っても怒られないし、笑ってくれる人がいる。すると、子どもは人に話をすることが好きになり、自分が「こうだ」と思ったことを伝える力が自然に育まれていきます。これは、新しい学力として伸ばしていきたい「思考力」や「表現力」に通ずる力です。
「どんなことを言っても大丈夫」と安心を手に入れた子どもは、外への興味が広がっていきます。特に小さな子どもは、見るもの聞くものすべてが興味の対象になります。はじめは「面白いな、楽しいな」と思って見たり聞いたりしていたことが、次第に「不思議だな、なぜだろう?」と知的好奇心に変わったとき、「なぜ?」「どうして?」という言葉があふれるように出てきます。