福島第一原発事故の風評被害はいまも続いている。福島在住ジャーナリストの林智裕さんは「私の祖父はメディアが広めたデマのせいで生きる希望を失い、失意のうちに亡くなった。メディアは『権力の監視役』どころか『第四の権力』となってしまっている」という――。

※本稿は、林智裕『「やさしさ」の免罪符 暴走する被害者意識と「社会正義」』(徳間書店)の一部を再編集したものです。

メディアがデマを広めている

今やメディアは少なくない人々から、流言を鎮めるどころか「広める側」と認識されている。アカデミズムもイデオロギーに偏向し、機能不全に陥りかけている。

日本学術会議は多くの批判や要望を受けていたにもかかわらず、結局、最後までALPS処理水関連では何一つ発信しなかった。

ファクトチェック団体の日本ファクトチェックセンターは、2023年7月になってようやく処理水関連のフェイクニュースを取り扱い、その後もいくつかの記事を書いた。

フェイクニュース
写真=iStock.com/bymuratdeniz
メディアがデマを広めている(※写真はイメージです)

「ファクトチェック」では止められない

ただし、日本ファクトチェックセンターは設立時にマスメディアを検証対象にしないことを宣言しているため、マスメディアの暴走を止める抑止力にはならない。

また、別のファクトチェック団体「InFact」に至っては、3回目の処理水海洋放出が開始され、もはや誰も話題にさえしなくなった2023年11月2日になってようやく処理水を取り上げたかと思えば、《ファクトチェックの結論 現状の開示で「安全」を確認するのは困難》《一般の読者、視聴者は政府の言っていることを鵜吞うのみにさせられている感が強い。

それでは「安全」を確認したことにはならない。「安全」か否かの議論をする前に、その前提となるデータを私たちが確認できる情報開示が必要だろう》などと締めている。

その一方で、以前、編集長に問題を直接指摘していた《福島第一原発事故で新事実 事故直後の首都圏で高レベルの放射線量が計測されていた》《「米兵のトモダチは高線量で被ばくしていた」フクシマ第一原発事故プロジェクト第2弾》(いずれも2018年10月記事)などは放置されたままだった。