リニア工事区域は「南アルプスの希少な生態系」とは無関係

2013年9月、JR東海がリニアトンネルに関わる環境影響評価(アセス)準備書を公開すると、自然保護団体、研究者らがアセスの内容を調査、南アルプスを貫通するリニアトンネルによるさまざまな問題が浮上した。山梨、長野、静岡3県で南アルプス地域の保全を訴え、リニア反対運動などが起きた。

しかし、BR地域(ユネスコエコパーク)の「移行地域」は、地元の経済的利益を図るのが目的である。リニアトンネル工事に何らかのブレーキを掛けることはできない。

南アルプストンネル静岡工区はすべて「移行地域」に当たる。リニア工事による東俣林道整備などで静岡市に経済的利益をもたらす。「エコパーク」だからといって、自然環境保全には縛られない。

エコパークの「核心地域」ではないリニアトンネル静岡工区の南アルプス保全は、川勝知事の言う「国際公約」でも何でもない。「国際的な責務」は単なる虚偽である。

そもそも静岡県は「南アルプスには、世界の南限とされる希少動植物が多数存在し、守るべき極めて希少な生態系がある」と主張するが、リニアトンネル工事を行う地域は南限からあまりにも遠く離れていて、無関係である。

リニア計画路線から直線距離で25キロ以上も離れた川根本町の光岳てかりだけ周辺地域が南限に当たる。

「南アルプスを守る」象徴である光岳周辺
川根本町提供
「南アルプスを守る」象徴である光岳周辺

光岳周辺には希少な生態系が残っている

「森林生態系保護地域」として林野庁が設定した光岳を中心とする約3055ヘクタールが、ユネスコMAB計画のBR地域の「核心地域」に当たる。塩見岳、荒川岳、赤石岳、聖岳などからさらに南側に当たる光岳周辺は「世界の南限とされる希少動植物が多数存在し、守るべき極めて希少な生態系がある」ことはよく知られている。

光岳周辺の中核(コア)約1115ヘクタールが、環境省の「原生自然環境保全地域」に当たる。原生自然環境保全地域は、全国には屋久島など4地域があり、本州では光岳周辺のみが指定される。

大井川の支流、寸又川(16.6キロ)などの源流に当たり、世界の南限にあるハイマツ、シラベ、コメツガ、ブナ、ミズナラなど累々と茂る原生林と岩と水が支配する高山帯が続く。

光岳(2592m)の尾根筋をたどり、加加森山(2420m)、池口岳(2392m)、千頭山(1945m)、そして百俣沢の頭(2418m)をぐるりと取り囲む森林地域は、人間の活動の影響を受けることなく、太古の姿がそのままに残っている。