川勝知事の「自然保護」姿勢の源流

川勝知事が国際公約に挙げる「ユネスコエコパーク」は、実際は、ユネスコ「人間と生物圏(MAB=Man and Biosphere)計画」研究事業の「生物圏保存(BR=Biosphere Reserve)地域」を指す。自然と天然資源の合理的利用と保存を図るのが目的。

南アルプス保全を唱え続けた川勝知事
筆者撮影
南アルプス保全を唱え続けた川勝知事

世界遺産と違い、知名度が低いので、日本国内のみで通用する「ユネスコエコパーク」という響きの良い呼称を使っている。

BR地域では、世界遺産と同じように規制の厳しい「核心地域」「緩衝地域」を持つが、世界遺産と違うのは、「緩衝地域」の周りに、自然を生かして地元の利益を図る「移行地域」が設定されていることである。

自然との調和を図る地域発展が狙いで、川根本町、山梨県早川町、南アルプス市、長野県大鹿村は、街全体がBR地域に指定されている。当然、ふつうに人々が暮らす街中は「移行地域」であり、早川町、大鹿村では南アルプストンネル掘削がすでに始まっている。街の中を四六時中、工事用車両などが行き交う。地元の経済的な利益を図るのだから、BR地域の目的にかなっている。

街全体がユネスコエコパークの川根本町
筆者撮影
街全体がユネスコエコパークの川根本町

街全体が「移行地域」に指定される川根本町は、ユネスコエコパークが何かを象徴する。南アルプス最南端の街は人と自然の共存にふさわしい地域であり、エコパークだからといって何らかの規制があるわけではない。

南アルプスの世界遺産登録を諦めて…

2007年2月、静岡市、川根本町など静岡、山梨、長野3県の10市町村長が「南アルプス世界自然遺産登録推進協議会」を設立し、行政主導型で世界遺産運動がスタートした。世界遺産という「ブランド」によって、南アルプスの魅力を高め、山間地の振興を図りたい意向だった。世界遺産登録が難しいことがわかると、BR地域登録に舵を切り替えた。

2014年6月、ユネスコMAB委員会が南アルプスをBR地域に指定すると同時に、南アルプスの世界遺産運動は消滅した。もともと世界遺産を提案した静岡市などは自然環境保全が目的ではなかったため、「ユネスコエコパーク」という地域振興を図る国際的な「称号」を得たことで十分、満足したようだ。