高齢ドライバーの「暴走事故」の原因はどこにあるのか。医師の朴啓彰さんは「事故を起こす高齢者の脳には『白質病変』という特徴がある。脳ドックを受ければ、そうした異常をすぐに確認できる」という――。

※本稿は、朴啓彰『75歳を越えても安全運転できる運転脳を鍛える本』(アスコム)の一部を再編集したものです。

「高齢ドライバー」への非難が高まっていた

「高齢者に車を運転させるのは、危ないんじゃないのか」

私の記憶では、2010年前後あたりから、このような声が世間で頻繁に聞かれるようになりました。高齢ドライバーの起こす交通事故が目立ち始めてきたからです。

そして、事故の件数は日増しに上昇していきました。その中心には、認知機能の落ちてしまっている人たちが多くいました。

「いったい警察は何をしているんだ! 認知症の人に免許を与えるな」

このように、非難の声は高まるばかり。2010年代半ばには、高齢ドライバーによる事故はすでに大きな社会問題になっていました。

「認知機能検査」が強化された

そんな情勢を受け、NHKは専門家をまねいて時事問題について討論を展開する番組「日曜討論」にて、高齢ドライバー事故をテーマに選択。番組内でいかに事故を防止するかについて話し合いがもたれ、国が喫緊の課題として取り組むべきであるという結論に至りました。

これが2016年12月11日のことです。

討論の内容はものすごくタイムリーで、的確で、有意義でした。

自動車運転外来を開設する前でしたが、私は高齢ドライバーの診断を行う専門の医師として、「これはええ番組やなぁ」と感心したことを鮮明に記憶しています。

おそらく国にとって、この番組の放送が大きく舵を切る契機になったのでしょう。

すぐに道路交通法が改正され、2017年3月から高齢者の免許更新時や軽微違反時に課せられる認知機能検査が強化されました。

図形を選ぶテスト
写真=iStock.com/T Turovska
「認知機能検査」が強化された(※写真はイメージです)