全員の前で「リストラはない」

円谷プロダクション社長 
大岡新一

1947年、東京生まれ。慶大法学部を中退し69年入社。フリーの撮影・特技監督を経て2004年、再入社。08年から現職。

円谷プロダクションは経営不振から2007年に大手CM制作会社TYOの傘下に入り、同時に社員の4割を削減するリストラを行った。さらに10年4月には、最大株主が同社から総合エンターテインメント企業フィールズに移るという大きな変化に見舞われた。

私は07年に買収された当時の製作担当役員であり、その意味での経営責任を負っている。当初は他の役員とともに辞任するつもりでいたが、図らずも社長を引き受け、今日に及んでいる。その間、経営者としての最大の課題は、落ち込みがちな社員のモチベーションを上げてゆくことだった。

いま日本では雇用不安、仕事の過重などの苦しさが働く人の上にのしかかっているが、かといって給与の形で報いることもできにくい。どうやってやる気を保つのかは難しい問題だ。

円谷プロの経営を立て直すなかで私が最も気をつけたのは、社員が疑心暗鬼に陥らないよう、経営情報を共有することだった。その際には、なるべく肉声で語りかけるようにした。

というのも、円谷プロは社員約80名のコンパクトな組織である。年末や年初、期が変わる際、また経営上で大きな変化があったときには、会議室に本社勤務の社員全員を集めて、私から直接、話をするようにしている。

今回の株主移動の際には正式発表の直前に社員を集め、事実をありのままに説明した。そして「親会社は変わるが、リストラはしない。ウルトラマンシリーズを知り尽くしている社員こそが円谷プロの財産だ」と強調し、不安払拭に努めたのだ。