せめて1ドル=130円くらいを目指すべき

政府はおそらく、円安・物価高に国民が多少文句を言おうとも、最終的には日本経済全体にメリットがあるから、このまま円安誘導を進めよう、と考えているのでしょう。

でも実際には円安が進んでセンチメントが悪化し、内需に悪影響が出ています。ある程度の円安ならメリットがあるでしょうが、いまの相場は行き過ぎです。せめて1ドル=130円くらいをキープできるように、財政・金融政策を調整すべきでしょう。

日銀はもしかすると、金融政策を早期に正常化すると、せっかくの景気を冷ましてしまう、と思っているのかもしれません。

その考え方は理解はできますが、賛成はしかねます。

日本の実質賃金は2023年12月まで21カ月も連続で悪化しています。異次元緩和があまりにも長期にわたったため、金融緩和の効果自体も疑問視されています。

現在の金融政策が変わらない限り、賃上げの動きも本格化しないのではないでしょうか。このまま手をこまねいているより、金融政策の転換を急ぐべきだと思います。

円安を招いたのは日銀の政策

もう一つ賛成できない点として、日銀のコミュニケーションがあげられます。

植田総裁は昨年秋、「年末から来年にかけてチャレンジングな状況が訪れる」と発言しましたが、市場はこれを「年末年始にマイナス金利を解除するメッセージ」だと受けとめました。

しかし、日銀は動きませんでした。だったら思わせぶりなメッセージなど出さなければいいと、市場関係者の多くが呆れたのです。

もともと「日銀文学」と揶揄やゆされるくらい、日銀のメッセージは分かりにくいことで有名です。それに加えて、植田総裁の言葉はいつもあいまいで、特に海外の投資家には、日銀が何をやろうとしているのか、全く伝わっていません。

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写真=iStock.com/jovan_epn
「日銀文学」と揶揄されるくらい、日銀のメッセージは分かりにくい(※写真はイメージです)

昨年7月にYCCを実質解除した時も、日銀と植田総裁の発したメッセージは非常に分かりにくいものでした。海外の投資家は、政策変更が金融引き締めなのか、それとも金融緩和なのか、すぐには理解できず、為替相場がしばらく乱高下することになりました。

もちろんこの動きを海外の投機筋が見逃すはずがありません。投機筋が円安を見越したポジションを取り、相場は財務省・日銀が期待したのとは逆に、大きく円安に振れることになりました。

為替の安定を目指すべき金融当局が、むしろ為替相場を混乱させているのです。