粘りや風味のある独自のソースを開発

直接販売は一般に、時間や人手を要する。しかしその一方で、多くの人に直接会い、生の声を聞けるというメリットがある。この声に耳を傾け、佐々木商店は飲食店に代わって、お好み焼きに合う粘りや風味のあるソースを、新たにつくってみることにした。こうして1952年に生まれたのが、「お好みソース」である。

ソースを出荷するトラック(1952年)
写真提供=オタフクソース
ソースを出荷するトラック(1952年)

「お好みソース」は、お好み焼きを提供する街の飲食店のあいだで、店で調味料を混ぜ合わせる時間や人手が省け、味もよいと人気を博す。その後、他社とは違う独自のソースは、小売店や問屋にも取り扱ってもらえるようになり、家庭でもプロの味が気楽に楽しめると、市場も広がっていく。

先行したニーズを抱える「リード・ユーザー」

現在でもオタフクソースの営業スタッフは、日本各地において街で評判の人気店を見つけては、新たな訪問することを絶やさない。そして、そこで使われているソースやタレなどについての教えを請い、オタフクソースの工場で特注品として製造することの提案が、業務のひとつとなっている。

このオタフクソースからの提案は、街の飲食店にとってもメリットがある。多忙な人気店にとっては、店で使うこだわりのソースやタレなどを特注品として製造してもらえば、店舗で混ぜ合わせる時間や人手などを削減でき、生産性が向上するからである。

これらの街の人気店は、一般のユーザーよりも先行したニーズを抱える「リード・ユーザー」だといえる。トレンドの変化をとらえた新商品の開発に日常的に取り組んでいるのは、製造企業だけではない。その利用者や使い手のなかにも、必要に迫られつつ、利用している商品の改良や改善や新しい組み合わせに創意工夫を重ねる人たちがいる。こうしたユーザーがリード・ユーザーであり、このリード・ユーザーを活用したイノベーションをユーザー・イノベーションという。