革新的なアイデアを出すためには、どうすればいいのか。マーケティングの世界では「市場調査(マーケティング・リサーチ)」という手法の存在が知られている。その方法は大きく2つに分けられる。一つは、大量のアンケートなどを使う量的調査。もう一つは、利用者に個別にインタビューなどをする質的調査である。

とはいえ、いずれの調査でも多数派の傾向や典型的な利用方法などを対象とすることが多く、それだけでは、なかなか画期的な製品やサービスは生まれないという悩みも聞く。そのような悩みにこたえるマーケティング・リサーチの手法が、エクストリーマー・リサーチである。

蒸留装置
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山中の一軒家で暮らす人は何を考えているのか

エクストリーマー・リサーチとは、商品開発などの担当者が日頃接点のない特殊な人たちを対象に行う市場調査である。たとえば、ファッション誌の読者モデルや、山中の一軒家で暮らす人、ユーチューバーやブロガーとして活躍するティーンエージャーなどがその対象となる。

エクストリーマー・リサーチでは、普通の愛好家や生活者とは異なる、少数の極端な人たちの日々の暮らしや行動についての観察や聞き取りなどを行い、検討を重ねる。トップアスリートを集めての座談会で仮説をぶつけてみたり、コロナ禍を機にワーケーションにライフスタイルを切り替えた夫婦の日常を追ってみたりする。

そんな少数の限られた人たちを相手に、商品開発を進めて大丈夫なのか。販売量を確保できるのか、と思われるかもしれない。しかし、この懸念は杞憂きゆうである。エクストリーマー・リサーチの目的は、特殊な生活や活動から学ぶことによる、マーケティング上のインサイト(より広い人たちの購買をうながす核心となる要因)の掘り起こしである。そこではエクストリーマーは、販売のターゲットではなく、インサイトを生み出すきっかけとして活用される。

大企業が知恵を求めに来る小さな事務所

伊藤崇氏は現在、MARL DESIGN STUDIOの代表として建築設計などにかかわる。商業店舗などの設計からマーケティングまでを手掛けるというのが、伊藤氏の仕事のスタイルである。伊藤氏は大学院で建築学を専攻したあと、複数の企業で建築設計やマーケティングなどの業務にかかわってきた。そのときの経験を現在の仕事に生かしている。

とはいえ、MARL DESIGN STUDIOは個人企業だ。伊藤氏は、企業勤務の経験があるとはいえ、そこでプロジェクト・リーダーとしてヒットを連発したわけではない。海外有名大学のMBAホルダーでもない。

ところが、この伊藤氏には大手企業などから各種の商品企画やマーケティング開発への助言などの依頼がたびたびあるのだという。そして依頼を受けて伊藤氏は、企業内のセミナーやワークショップの講師、あるいは開発のプロセスに伴走するアドバイザーなどをつとめる。