「改良」のノウハウだけでは解決できないこと

筆者が、伊藤氏に取材を申し込んだのは、「なぜ、社内に多くの開発人材をかかえているはずの大手企業が、伊藤氏に助言や支援を依頼するのか」「こうした企業の開発部門には、どのような知見が不足しているのか」と、疑問に思ったからである。そしてそこから、問題が山積みの現在の日本の企業や産業の課題解決に向けた手がかりを得ることができるのではないか、と思ったからである。

伊藤氏の回答は明確だった。これらの大企業が社内に蓄積しているのは、市場に出回っている既存の製品やサービスを改良するタイプの開発における成功体験である。そのため、開発担当者は、「これまでにない画期的な製品やサービスを一から開発する」というミッションを与えられると、「どこから、どう手をつけたらよいか、わからない」という悩みに直面する。伊藤氏はこのような悩みの解消を支援しているのだという。

ブレインストーミング
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ベースとなった小林製薬での経験

人口減が進む日本のような国では、これまでの延長線上で市場をとらえていては、事業が成長する見込みは乏しい。しかし目を転じれば、デジタル化や脱炭素などの各種の技術革新は止まらず、ワーケーションやシェアリングなど、働き方や暮らし方の見直しも進んでいる。今までの延長線上にはない新しい製品やサービスを提供できれば、成長のチャンスはまだ十分に期待できる。

伊藤氏が助言や支援を求められるのも、従前の延長線上にはない開発の新しいアイデアが、多くの企業や産業で必要となっているからである。この必要を見すえて企業の経営陣は、これまでにない新しい製品やサービスの開発を指示する。そのために開発部門では、先ほど述べたような「どこから、どう手をつけるか」問題が発生する。

伊藤氏はこれまで、複数の企業で建築設計やマーケティングなどの業務にかかわってきた。マーケティングについていえば、小林製薬での商品開発の経験が、現在手掛けている助言や支援に役立っているという。