吉野家に連鎖する毒
長女の4歳下の次女は、長女が不登校になった約半年後、小学校4年生時に不登校になっていた。ほとんど中学校に行かずに高校を受験し、入学するも2年で休学。しばらくフリースクールに顔を出していたが、この春から1年遅れで高校2年生に復学した。
長女と異なり、次女は慣らし保育を経て幼稚園に入園して以降、放任気味になっていた。
次女自身、長女に過保護・過干渉する母親を警戒し、距離を取っていたが、そのせいで孤独感を募らせていたようだ。不登校期間中に自分や母親、家族と向き合い、社会での自分の立ち位置なども冷静に分析したうえで、「自分には、好きに生きて食っていける能力はない。だから、生きていくには社会のレールに戻るのが一番安全なんだ」という答えにたどり着き、復学を決めたという。
「約30年前、苦しむ妹と両親から逃げたとき、あのとき、アダルト・チルドレン家庭の連鎖の怖さに気付いていたら、子どもたちをここまで苦しめることはなかったでしょう。もしかしたら、家庭を持つことも、子どもを産むことも考えなかったかもしれません。嫌なものに蓋をして逃げた問題は、必ずまた自分に降ってきて、更なる犠牲者を生み出します。だから、連鎖を断つ機会を逃してはいけませんでした」
長女が高校に行けなくなったとき、吉野さんは一念発起し、生まれ変わったように依存症専門のカウンセラーからがむしゃらに学び、実践してきた。「連鎖を断つ機会」とは、家族ぐるみで向き合わなければならない問題が起きたときのことだ。アダルト・チルドレン家庭の連鎖を断ち切るためには、避けては通れない機会だという。
山梨県医師会によると、「アダルト・チルドレン(Adult Children:以下AC)とは、子どもの頃に、家庭内トラウマ(心的外傷)によって傷つき、そして大人になった人たちを指します。子どもの頃の家庭の経験をひきずり、現在生きる上で支障があると思われる人たちのことです。それは、親の期待に添うような生き方に縛られ、自分自身の感情を感じられなくなってしまった人、誰かのために生きることが生きがいになってしまった人、よい子を続けられない罪悪感や、居場所のない孤独感に苦しんでいる人々です。ACという言葉は、伝統的な精神医学や心理学の枠組みでの診断名ではありませんが、自分の育ってきた環境、親や家族との関係を振り返って自分自身を理解するための、1つのキーワードとしてとらえることができます。」(「アダルト・チルドレンってなに?」)とある。
ストレスが日常的に存在している状態の「機能不全家庭」で育った吉野さんの母親は、ACだったが故に、「機能不全家庭」を築き、吉野さんもまた、ACだったが故に、「機能不全家庭」を築いてしまった。しかし、自身がACだったと自覚し、自分自身の“生きにくさ”を理解することで、連鎖は断ち切ることができる。
最近吉野さんは、夫や長女、次女からも、「変わったね」と言われるという。しかしここまで来る途中には、思わず干渉しすぎてしまい、慌てて謝ることも何度もあった。そんなとき娘たちは、「お母さんのほうが毒にさらされてきた期間が長いんだから、治療にも時間がかかるんだよ」と言ってくれた。(後編おわり)