親子関係は複雑だ。子供の頃に親から言われた「さりげない言葉」が、大人になってからも影響することがある。カウンセラーの寝子さんは「専業主婦だったDさんは、子供が小学生になったのを機にパートタイムで働き始めた。家事も育児も手を抜かないように毎日忙しく過ごしていたが、疲労と寂しさと怒りを抱えて相談に来た」という――。(第1回/全3回)

※本稿は、寝子『「親がしんどい」を解きほぐす』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
※本稿で出てくる事例は、実際のケースにヒントを得て再構成したもので、特定のケースとは無関係です。

電話で話す人のイメージ
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親が生きた時代の価値観を知ると理解につながる

親との間に起きるストレスを考えるとき、子ども側である自分の気持ちだけでなく、親側の要因も理解できると、モヤモヤがさらにスッキリすることがあります。

親を理解しようとするとき、親が生きた時代がどういう時代であったのかを振り返ることで個別の理解の助けになります。

私たちの親世代は、「団塊の世代」の高度成長を代表に、その下の世代も、景気の良い活発な時代を経験したことがあります。そのため、今よりも「将来はおおむね明るい」と安心感を抱くことができました。

社会の繁栄の体験と、将来への安心感が、自分に対するポジティブな評価につながっていることが多いように見受けられます。

一方で、今よりも画一的な価値観を教え込まれ、個別性はできるだけ排除し、多数派に従って生きたケースが多いという傾向も持ち合わせています。生き方や考え方に対して、多くの選択肢があった時代ではありませんでした。

将来は明るいと思え、選択肢がなかったことは、自分について考える必要がなかったことにつながります。

親世代は「内省力」が培われていない傾向がある

考えるという習慣がないため、かつて良しとされた価値観を考え直すことなく、今でも当時の価値観のまま子どもの人生に口を出してしまいます。

たとえば「つらくても我慢して今の仕事を続けるべきだ」と根性論を強固に唱えたり、「料理は手作りであるべき」などとこだわりを教え続けたりするなど、今の時代にはそぐわない生き方を子どもに強いていることがあります。

このような場合、親は自分が生きた時代の価値観を絶対だと信じて疑いません。

そのため、どうがんばっても子ども側の事情や気持ちが伝わらないことになります。

画一的な価値観を教え込まれたことにより、親世代は“内省力(自分の気持ちや考え、行動を顧みる力)”が培われていない傾向にあります。

“内省力”という自分を観察するスキルは、対人関係においてとても重要です。

「自分は日ごろどんな言葉を使っているか」「自分はどんなときにイライラしやすいか」「自分は相手にどう接しているか」など、自分の特性に気づけなければ、人と友好的な関係性を築くことが難しくなります。

親が“内省力”に欠けていると、こちら側の希望は受け入れられず、あちら側の主張は脅迫的であるという事態を招き、親との会話がストレスになってしまいます。