※本稿は、旦木瑞穂『毒母は連鎖する』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
家庭での長女
次に市役所の相談員は、長女の家での様子をたずねた。
次女に対して長女は、次女が興味のあることを丁寧に教えてあげたり、好きな食べ物を多めに分けてあげるなど、優しいお姉ちゃんだった。
夫は、長女が4〜5歳くらいの頃、新居を購入したり、次女が生まれたりして、父親としての責任の重さをプレッシャーに感じていたのか、常にイライラしていた時期がある。その頃長女は、ささいなことで夫を怒らせては、怒鳴られたり、たまに叩かれたりしていた。それはその一時期だけだったが、以降長女は、父親の顔色をうかがい、慎重に言葉を選んで話すようになっていた。
そして母親である吉野さんに対しては、いつも「大好き」「ありがとう」と自分の気持ちを伝え、贈り物をくれる子だった。
「せっかちで自己中心的な私に対して長女は、おっとり優しくマイペース。私の誕生日、母の日、クリスマスなど、小さな花束や鉢植えを今までどれだけもらったか。私は『ありがとう』と言って受け取りましたが、内心は『なんでこの子は自分のためにお金を遣わないんだろう?』と歯がゆく感じていました。長女の優しさが弱さに思えていた私は、いつも長女を叱咤激励していました」
ガス欠状態
長女が進学する中学校は、地域の複数の小学校から生徒が集まってくるマンモス中学校だった。「長女が生き直すチャンスだ」と思った吉野さんは、「過去は過去! 新しくお友だちを作って、勉強や部活も頑張ってみようよ!」と長女に声をかけた。
すると長女は頑張った。友だちができ、成績も真ん中くらいをキープ。吉野さんは褒め、そして言った。「やればできるじゃない! やればできるんだから、もうちょっと頑張れるよね?」
そして現在に至る。
相談員はメモを取りながら、ひと通り話を聞き終えると、長女たちの居る別室に消えていった。吉野さんは話し終えたとき、激しい疲れと、スッキリしたような清々しさを感じていた。しばらくして戻ってくると、相談員は言った。
「お母さん、長女ちゃんはね、頑張りすぎちゃったんだと思います。車で言ったら、ガソリンが空っぽの状態なんです」
吉野さんは絶句した。
「今はとにかく、長女ちゃんをゆっくり休ませてあげてください。お母さんにも不安や葛藤があると思います。焦りもあるでしょう。でも、一番大切なのは長女ちゃんの心です。大丈夫。優しい、いいお子さんです。しばらく休んだら、きっとまた前を向けますよ」
そう言って相談員に微笑まれたとき、吉野さんは泣いていた。