親子の絆

2023年1月。面会するにもその老健は遠すぎたため、父親は奇跡的に空きが出た近所のグループホームに移った。

「通える距離のグループホームすべてに申込をして、手紙も書き、緊急事態であることを説明し続けた努力が報われました」

4月から娘は保育園に通い始め、春日さんは仕事に復帰した。

「正直、両親の介護でやりがいや喜びを得たことはありません。でも、母が最期に自宅に戻れて、『帰ってこられるなんて信じられない』と涙目で喜んでいたことだけはうれしかったです。育児と介護の両立だったからこそ、時間的に大変なこともりましたが、娘の存在に救われたことも事実でした」

春日さんの場合、第1子出産直後だったことに加え、一人っ子だったことや、両親がまだ60代と比較的若かったことも、突然始まった介護に翻弄される要因となった。

父親の前妻の息子たちは、春日さんの状況を知っているにもかかわらず、一切手を貸してくれなかった。

「私のように慌てずに済むように、両親に少しでも異変を感じたら、病院受診や介護保険の申請をしてほしいと思います。また、介護離職せざるを得ない方もいると思うので一概には言えませんが、私は、『いつか介護のせいで仕事を辞めたことを後悔するから、介護離職だけは避けた方がいい』『時として仕事は、介護や育児から逃げる時間やきっかけにもなるから』という言葉に従って本当に良かったと思います。育児や介護で悩んでいるのはあなただけではありません。どうか、つらい気持ちを分かち合える人に出会えますように……」

仲の良い母親が余命わずかとなれば、動揺しないわけがない。そんな中、第1子出産直後にもかかわらず、夫や義母たちの助けを得ながら娘の育児をし、母親をみとり、父親の世話をしてきた春日さんには頭が下がる。

旦木瑞穂『毒母は連鎖する 子どもを「所有物扱い」する母親たち』(光文社新書)
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春日さんは、コロナ禍で4月まで面会禁止だった父親のグループホームに、4カ月ぶりに夫と娘と行った。父親の暴言を覚悟し、前夜は悪夢にうなされた春日さんだが、久しぶりに会った父親はひたすら孫をあやし、童謡を歌い、「かわいいなあ」「大きくなったなあ」と言ってほほ笑んだ。別れ際に、「また来てくれよ~。でも、大変だろうから毎日は来なくていいよ」と笑う父親は、まぎれもなくかつての、情に厚く、穏やかな父親だった。精神科、老健、グループホームで、アルコール断ちができたのが良かったのだろう。

施設に入れたからといって、介護は終わりではない。それでも、子どもには子どもの生活がある。春日さんにはこれからも、娘第一、自分の家族優先で介護に向き合い続けてほしい。

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