生まれたばかりの女児を育てながら、同居する両親の介護をする30代女性。ステージ4の母親は抗がん剤治療を受けるも、黄疸が出るなど症状は悪化。さらに認知症の父はいつも酒に酔い、病床の母親に何度もしつこく同じことを聞いてくる。ついに母親は父親に嫌気が差し、「顔を見たくない」と口にするように――。
前編のあらすじ】東北地方在住の春日暁美さん(仮名・30代・既婚)は実家を2世帯住宅にリフォームし、同居を開始。2022年1月に女児を出産したが、母親は体調不良を訴え、2月ごろに病院を受診。さまざまな検査が続き、3カ月後に医師からようやく、「食道がんステージ4。多発肺転移、多発リンパ節転移。リンパ節転移による水腎症あり」と告知があり、抗がん剤治療入院が決まった。認知症の父も抱えた娘は――。

告知翌日のタスク

67歳の母親ががん告知を受けた翌朝、東北地方在住の春日暁美さん(仮名・30代・既婚)は、自身の産後の痛みと母親の状況から、延び延びになっていた助産師訪問を受けた。

そこで助産師に現在の両親の状況を説明すると、「お父さんの要介護認定は受けた方がいい」とアドバイスされる。さらに、「仕事を続けるべきか悩んでいる」と話すと、「介護離職は絶対にやめた方がいい。いつの日か必ず『お父さんのせいで仕事を辞めることになった』と思ってしまう時がくる。退職をしないためにも、まずは介護保険の申請!」と背中を押された。

母親の指を握る赤ちゃん
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午後、父親(72歳)が4年前に胃と食道の接続部のがんになってから3カ月に1度のペースで通っている脳神経内科に父親の付き添いで行くと、医師からも介護保険の申請を勧められた。春日さんは数日前、保健師をしていた友人にLINEで相談したところ、やはり同じことを言われていた。

春日さんは、父親の病院から帰宅するなり、その足で地元の地域包括支援センターに向かう。娘はテレワーク中の夫に午後から休みをとってもらい、任せていた。

包括支援センターでは、介護支援専門員から、「今日は介護保険の申請に? 今回申請しようと思ったのは何かきっかけが?」とたずねられる。

春日さんは、「はい、父が認知症で。でも日常生活は自力ででき、今までは母が相手していたんですけど……」と話し始めるなり、涙が止まらなくなった。

「もう、頭も心も爆発しそうだったんだと思います。介護支援専門員さんは、私が話すこと全てを傾聴し、寄り添ってくださり、話を聞いてくれるだけですごく救われる思いがしました」

申請書を書き、父親に借りてきた運転免許証と保険証で、すぐに申請は終わったが、最後に、介護支援専門員からこんな話があった。

「あなたのことがとても心配。介護保険を利用してお父様を安心して預けられる場所を探して、自分のペースでお子さんと過ごせる時間をつくったほうがいいと思う。まず優先すべきはお子さんよ。お仕事は、続けられるように職場に相談することをおすすめするわ。今退職してしまったら、『両親のせいで』といつの日か思ってしまうと思う」

春日さんは翌日から、来春、娘を保育園に入園させ、復職するために保活をスタートした。