父親の介護認定と母親の手術

母親の入院から4日後の夜、春日さんが娘を寝かしつけ、自分もウトウトしていたところ、突然ドアが叩かれ、春日さんは飛び起きる。もちろん娘も目を覚まし、大泣きだ。

ドアの外には父親がおり、「お母さんがどこにもいないんだ!」と慌てた様子。「え? 4日前に入院したじゃん……」春日さんは絶句した。

それからというもの、父親の妄想やおかしな言動が急増。メガネなど落としていないのに、「メガネの落とし物があったと警察から連絡があった」と言ったり、母親は亡くなっていないのに、「母さんが亡くなったのがあまりに短期間だから病院を訴えよう」と言ったり、「母さんが危篤だと連絡があった」と言ったり、「今日から僕は入院するんだろ?」と言い出したりし、その度に納得させるのに骨が折れた。

怒鳴る男性のシルエット
写真=iStock.com/PepeLaguarda
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2022年5月。抗がん剤の1クール目を終えた母親の退院に合わせ、父親の介護認定調査を受ける。父親のことを一番良く知っているのは、やはり母親だからだった。

翌日、母親は2クール目の抗がん剤治療に入り、10日後に退院すると、延び延びになっていた娘のお宮参りを決行。うれしそうな母親と、笑顔の家族を眺めながら、春日さんは心から、「この日が迎えられて良かった」と思った。

6月。父親の介護認定調査の結果が出た。要介護1だった。

7月。春日さんの保活はピークを迎えていた。娘を抱っこ紐に入れ、1日に2園回るなど、汗だくで保育園見学に奔走していた。

一方、抗がん剤治療の5クール目に入るために入院した母親は、肝臓に転移した腫瘍が大きくなり、胆管を塞いだせいで黄疸が出、肝臓の数値が悪いため、抗がん剤治療はストップし、内視鏡手術を受けることになった。

その連絡を受けて春日さんは、再び包括支援センターへ向かう。要介護1と認定された父親はどのようなサービスが受けられるのかを聞いておくためだった。

すると、以前対応してくれた介護支援専門員が、「看護小規模多機能型居宅介護(看多機)」を勧めた。「看多機」とは、通所(デイサービス)・宿泊(ショートステイ)・訪問看護と介護を、すべて同じスタッフが行ってくれる施設だ。

「通所」により、日中父親が家を空けることで、春日さんが育児や家事に集中できる。
「宿泊」により、母親に何かあったときに、夜間の父親を預かってもらうことができる。
「訪問介護」は、急に父親の認知症の症状が進んだときに、家で介護もしてもらえる。

というメリットがあると説明された。

「父が実際に行ってくれるかどうかは置いておいて、とてもいいと思いました。『ここのサービスを受けている間は、他のサービスを利用することができない』『利用ごと払いではなく、月額払い』というデメリットはありますが、当時の私には、保活とは違い、デイサービスを調べて選ぶ労力も時間もありません。ほぼ私の心は決まりました」

母親の手術は成功し、8月に退院することができた。