厳しいビジネスの世界で働いていると、誰しも複数の厄介ごとを1度に抱えてしまうことがある。

上司からの無理難題、顧客とのトラブル、家庭での不和、自身の病気……。こんなとき、すべてをひとまとめにして対処しよう、などと考えてしまうと、気が滅入って体が動かなくなってしまう。

逆に、問題を個々に切り離し、集中して順番に対処していくよう頭を切り替えると、案外、やすやすと片付けられるものだ。
『孫子』には、これとそっくりの戦いの原理原則がある。

・こちらがかりに1つに集中し、敵が10に分散したとする。それなら、10の力で1の力を相手にすることになる
(我は専(せん)にして一となり、敵は分かれて十となれば、これ十を以ってその一を攻むるなり)(「虚実篇」)

これを「各個撃破」の原理という。巨大でとても敵わないような相手でも、小さく分散させたうえで、個々に戦うよう仕向けられるなら、最終的な勝利を得られるというのだ。古今の名将が勝利の切り札とした戦い方だが、同じ考え方が、現代のビジネス戦略にもある。

 《ターゲットを広くした同業者よりも、狭いターゲットに絞るほうが、より効果的で、より効率のよい戦いができるという前提から、この戦略が出てくる》(『競争の戦略』マイケル・E・ポーター 土岐坤訳 ダイヤモンド社)

こちらは、マイケル・E・ポーターという経営学者が唱えた「選択と集中」という概念になる。

自社の能力が活かせる分野で、かつ、今後の利益が期待できそうな業界に経営資源を集中し、ライバルの追随を許さないようにすれば、勝ち残りが期待できるというのだ。日本でも1990年代半ばから、経済をテーマにする媒体で盛んに喧伝され続けている。そして、例にも挙げたように、個人、戦争、ビジネス……と、この「各個撃破」は、幅広いジャンルで強力な武器となる考え方なのだ。