成功へのいちばんの近道はなにか。コロンビア大学ビジネススクールで人気講義「THINK BIGGER(発想をより大胆に)」を開くシーナ・アイエンガー教授は「失敗から学ぶのは効率が悪い。過去の成功を部分的に臆することなく盗むのが最も手っ取り早い」という――。

※本稿は、シーナ・アイエンガー著・櫻井祐子訳『THINK BIGGER 「最高の発想」を生む方法』(NewsPicksパブリッシング)の一部を再編集したものです。

難しい数学の問題と折れた鉛筆
写真=iStock.com/malerapaso
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失敗は最良の教師ではない

Think Biggerを学生に教えると、「なぜ失敗事例も調べないんですか?」という質問が必ず飛んでくる。それはもっともな疑問だ。私たちは子どもの頃から親や教師に、「失敗は最高の学び」だと言われ続けてきた。そして大人になってからも、誰かが失敗すると同じ言葉をかける。

だがこの言葉の本当のねらいは、くじけないで、自分を責めないで、と慰めることにある。たしかに失敗からは、「完璧な人はいない」という教訓が学べるし、どん底から立ち直れば、困難に立ち向かう力を養えるだろう。

しかし残念ながら、立ち直らない人もたくさんいる。それに考えてみれば、人は失敗したから成長するのではない。失敗に対処することで成長するのだ。失敗そのものから学べるのは、うまくいかない方法だ。もしかしたら、謙虚な心も。

もし「失敗は最良の教師」という言葉が本当なら、できるだけ多くのことを学ぶために、できるだけ多くの失敗をすべきだということになる。だが失敗は痛みを伴う。だから覚えている。そして失敗は最良の教師ではまったくないのだ。

簡単な食用キノコの本と毒キノコ図鑑、サバイバルに必要なのは

たとえばあなたがテレビのサバイバル番組に出場して、1カ月間自力で生き延びなくてはならないとしよう。ヘリコプターで森の真ん中に真っ裸で下ろされる。水は豊富にあり、食料源はそこら中に生えているいろいろなキノコだ。

ここに、あなたの生存確率を高めるかもしれない本が2冊ある。1冊は森に生えている500種類の毒キノコの図鑑、もう1冊は10種類の食用キノコの簡単なガイドブック。どちらか1冊しかもらえないとしたら、あなたはどちらを選ぶだろう?

キノコにくわしくなりたいなら、図鑑が役に立つ。だがあなたの目的はまったく違う。サバイバルだ。雨風をしのぐ小屋を建て、火にくべる燃料を探し、火をおこす方法を考え、生き延びるための食料を集めなくてはならない。着るものや、とくに足を保護するものをつくる必要もある。

つまり、あなたは一刻一秒を争う数々のサブ課題を解決しなくてはならない。食用キノコのガイドブックは、サブ課題の1つを解決する。毒キノコ図鑑は、どの課題も解決しない。