転職市場が活況を呈する中、中高年層が役職定年などを機に辞表を提出するケースが増えている。だが、現実には20~30代に比べ転職成功のハードルは高く、希望通りとはなりにくい。人事ジャーナリストの溝上憲文さんは「高額の割増退職金をもらって辞めた人ほど、転職に失敗する人が多く、大手企業出身でも1社しか経験がなく、45歳以上だったら即不合格とする企業もある」という――。
懐から辞表を取り出す男性
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「みんな転職してるから、自分も辞める」が危ないワケ

人手不足もあって中高年の転職者が増加している。総務省統計局の2022年の転職者数は303万人となり、3年ぶりに増加に転じた。

年齢別では「25~34歳」が75万人と当然ながら多いが、「45~54歳」が54万人、「55~64歳」が45万人と、中高年層が全体の3分の1を占めている。

日本人材紹介事業協会の職業紹介会社大手3社の「2022年度下期(10~3月)転職紹介実績」でも、41歳以上は前年同期比125.6%と増加している。転職の増加は政府の転職による賃上げを目指す「三位一体の労働市場改革」にも合致している。

しかし、中高年の転職者が増えているといっても、20~30代に比べて転職のハードルはかなり高い。

ミドルシニアの転職支援を行っている人材コンサルタントはこう指摘する。

「35歳以上の求人が増えているといっても、転職市場の求職者は35歳以下が4割、35歳以上が6割を占める。その上、求人の8割が35歳以下を求め、35歳以上の求人は2割しかない。つまり、4割の若者に8割の求人があり、6割のミドルシニアに2割の求人しかない構造が続いてきた。多少増えて25~30%程度になったところで厳しいことに変わりはない」

しかも、高い競争率を乗り越え、転職できたとしても政府が狙う「賃上げ」に必ずしもつながるとは限らない。

厚生労働省の「雇用動向調査結果の概況」(2021年)によると、50~54歳の転職者の賃金は「増加した」が32.0%、「変わらない」が32.9%、「減少」が34.1%となっている。減少・変わらないという人が圧倒的に多い。55~59歳になると、「増加した」は20.5%とさらに少なくなる。

転職エージェントの登録者の場合はどうか。エン・ジャパンの『ミドルの転職』(2023年)の調査によると、50~54歳の転職者で年収が上がった人は48%、下がった人は44%と拮抗きっこうしている。ところが、さらに上の世代である55~59歳になると、上がった人は25%、下がった人は65%。55歳を境に下がる人が増加している。

興味深いのは転職決定者の年収分布だ。

50~54歳で最も多いのは600万~799万円の33%、次いで400万~599万円の32%、800万~999万円が26%となっている。

55~59歳になると、600万~799万円の35%、次いで400万~599万円の33%と傾向は変わらないが、800万~999万円が16%とぐっと少なくなる。

厚労省の「賃金構造基本統計調査」(2022年)によると、50代の平均年間賃金は800万~900万円(男性・大学卒)。従業員1000人以上は900万~1000万円と、もともと年収が高い。転職によって800万円を超えるかどうかが転職の成否を握っている。