ビッグモーターが引き起こした自動車保険の不正請求問題の背景には、ノルマ至上主義の「成果主義」と、頻繁に実施された有無を言わせぬ「降格処分」があった。人事ジャーナリストの溝上憲文さんは「“社畜”を量産する恐怖人事がまだ日本に残っていることを認識させられた」という――。
保険金の不正請求問題を受け、記者会見する中古車販売大手ビッグモーターの兼重宏行社長=2023年7月25日午前、東京都港区
写真=時事通信フォト
保険金の不正請求問題を受け、記者会見する中古車販売大手ビッグモーターの兼重宏行社長=2023年7月25日午前、東京都港区

1件当たりの工賃と部品粗利を「@(アット)」と呼ぶ

ビッグモーターの自動車保険の不正請求問題で、故意に車体を傷付ける悪質な手口が注目を浴びた。

具体的には、ヘッドライトのカバーを割る、ドライバーで車体を引っ掻いて傷をつける、ローソク・サンドペーパーなどを使って車体に擦過痕様の痕跡を付けていたことも報告されている(特別調査委員会「調査報告書」2023年6月26日)。

そして極め付きは「ゴルフボールを靴下に入れて振り回して車体を叩き、雹害痕の範囲を拡大させる」(報告書)ことが行われていたことがメディアでも大きく報じられた。

異常天候で急にひょうが降ると、テレビで「ゴルフボール大の雹が降った」と表現されるが、それをヒントに編み出した知恵なのかもしれない。そんな知恵が良い方向で使われることなく“悪知恵”でしか働かなかったところに同社の悲劇がある。

しかもアンケート調査では不適切な保険金請求につながる不正な作業に関与していたのは回答者382人中104人、他の者が不正な作業に関与しているのを見聞きしたことがある人が68人もいた。板金・塗装の工場で組織的に行われていたことがわかる。

なぜ社員は不正な作業に手を染めてしまったのか。

104人中61人が「上司からの指示」を挙げ、44人が「営業所の売り上げ向上を上げるため」と答えている。ではなぜ上司は売り上げ向上を図るため不正な作業を指示したのか。その根本的原因は、ノルマ至上主義の「成果主義」と、頻繁に実施された有無を言わせぬ「降格処分」にあった。

同社では車両修理案件1件当たりの工賃と部品粗利の合計金額を「@(アット)」と呼び、アットの目標達成が強く求められていた。

報告書はこのアットで示されたノルマ重視の方針が不適切な保険金請求を行うことによって営業目標を達成しようとする者が増加したと見ている。そしてこう証拠を挙げている。

「実際、本調査においても、経験の浅い工場長を中心に、工場長会議で追及を受けることがプレッシャーとなり、過大見積り等の不適切な行為に手を染めるようになった旨説明する者が少なくなかった。その一方で、アットを始めとする営業成績を過度に重視した昇格人事が行われていたため、工場長の中には、酒々井店の工場長を務めていたGのように、出世欲から、自ら率先して車両の損壊行為に及ぶだけでなく、部下のフロント従業員にもこれを強いるなどまでして営業成績向上を図る者も現れるようになった」(報告書、原文ママ)

もっとも事故車両の工賃は対象車両の損傷状況によって決まるものであり、中古車の買取・販売部門の営業職と違い、いくら努力しても工賃が増える性質の部門ではない。