降格処分頻発で従業員は萎縮、経営陣に盲従の風土

過度のノルマを課すこと自体がおかしい。かつてソーラーパネルを販売していた会社の営業マンが屋根のないアパートに住む老人にパネルを販売し、訪問販売法違反で逮捕されたことがある。過度のノルマは犯罪に走らせてしまうが、同社の工場の従業員もノルマのプレッシャーから“犯罪”に走ってしまったことになる。

しかし従業員の中には、そんなことまでして出世したいとは思わない社員もいただろう。そんな社員を突き動かしたのがもう1つの「降格処分」だった。ノルマ達成による昇格がアメであるとするなら、「降格」はムチである。

降格処分の実行者は、次期代表取締役社長への就任が確実視されていた兼重宏一副社長だった。2020年から2022年にかけて延べ47人の工場長が一担当のフロントへの降格処分を受けている。

通常の降格人事は、人事評価制度に基づいて、3期連続で一定の評価基準を下回った場合に降格対象になる。もちろんその過程で「このままでは降格になるよ」と、本人の自覚と奮起を促すのが一般的だ。

しかし、この会社の降格は特異だ。報告書ではこう述べている。

「これらの降格処分は、主に、B副社長ら経営陣によりBP(ボディーペイント)工場を含む全国の営業店舗を対象として定期的に実施されている環境整備点検における成績や対応が不良であることを理由とするものであったとのことであるが、いずれの降格処分に際しても、被処分者には弁明の機会を与えられなかったばかりか、降格処分の理由さえも明確に伝えられないまま、一方的に降格処分が通告されていた」

自動車整備用リフトで上げらている車体
写真=iStock.com/Ziga Plahutar
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「環境整備点検」とは一般的に整理、整頓、清掃の3Sなどを意味するものだろうが、この不手際で降格する事例は初めて聞くが、そもそも降格による給料減額などの不利益変更が許されるとは思えない。報告書でもこう言っている。

「降格処分は、基本給の大幅な減額という経済的な痛手を強いることはもとより、場合によっては転勤を伴うこともあって、被処分者の生活に大きな影響を与えるものである。そのため、経営陣によるこのような有無を言わせない降格処分の頻発によって、全社的に従業員らを過度に萎縮させ、経営陣の意向に盲従することを余儀なくさせる企業風土が醸成されていったことは容易に推測されるところである」

理由を明らかにしない降格は不気味だが、本人にとっては恐怖でしかないだろう。しかも名目が3Sの不備だとすればなおさらだ。また、報告書も降格の理由が単純に「環境整備点検」の結果だと見ていない。

「当社においては、強権的な降格処分の運用の下、従業員らが経営陣の指示に盲従し、これを忖度そんたくする歪な企業風土が醸成されていたといわざるを得ない。そのような企業風土を背景として、BP工場従業員らが、アット平均を目標値とする営業ノルマを達成するために、一連の不適切な保険金請求に及んでいたという側面があることは明らかである」(報告書)