※本稿は、櫻井よしこ『異形の敵 中国』(新潮社)の一部を再編集したものです。
「七一勲章」授与式で習氏が語ったこと
習氏は「七一勲章」授与式に臨んだ。七一勲章とは市井の暮らしの中で自分の職務に忠実に黙々と奉献する平凡な英雄に贈られるもので、中国共産党の最高の勲章とされる。七一勲章を受けた「人民」の中に、尖閣諸島などで跋扈する海上民兵が含まれていた。尖閣奪取は台湾併合と背中合わせの中国共産党の宿願である。授与式で習氏は次のように国民を諭した。
「全党の同志はマルクス主義に対する信条、中国の特色ある社会主義に対する信念を生涯追い求め」なければならない。「永遠に党を信じ、党を愛し、党のために働き、各持ち場で必死に頑張り、崇高な理想のために奮闘する実践を絶えず前に推し進めていかなければならない」。
党への絶対的信頼、絶対的服従、熱烈な愛を要求している。その党の根本を導くのが習氏自身の思想だと言っている。国民に要求する絶対的信頼や永遠の愛は全て習氏に集中されるべきだという理屈だ。毛沢東への個人崇拝の再来である。
「習近平思想」への自負
2021年7月の建党100周年の記念講演で習氏は語った。
「100年前、中華民族が世界の前に示したのは一種の落ちぶれた姿だった。今日、中華民族は世界に向けて活気に満ちた姿を見せ、偉大な復興に向けて阻むことのできない歩みを進めている」
なぜ中華民族は力強く蘇ることができたのか。その理由は、毛沢東が中国を「立ち上がらせた」、鄧小平が「豊かにした」、自分が「中国を強くした」からだとする。その上で自分の唱える中国の特色ある社会主義だけが中国を発展させることができる、と幾度も強調し、繰り返す。
「カギとなるのは党だ」「中国共産党がなければ新中国はあり得ない。中華民族の偉大な復興もない」「中国共産党の指導が中国の特色ある社会主義の最も本質的な特徴だ」。
自分の思想があって初めて中国は成り立つ。中華民族の偉大さも「習近平思想」ゆえに実現されると信じて疑わない。絶対的支配者の自画像である。
上記の二つの演説に習近平氏の描く中国の未来の路線が明確に示されている。或る意味、わかりやすい。中国が少しでも開かれた民主国になり、穏やかな大国になってほしいとする日本、米国など大方の希望とは根本的に異なる路線だ。中国人民が中国共産党を唯一の政党として信頼し、その頂点に立つ指導者の自分を敬い慕い続ける国を習氏は目指している。