※本稿は、櫻井よしこ『異形の敵 中国』(新潮社)の一部を再編集したものです。
米シンクタンクが発表した「机上作戦演習」
米国の有力シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)が2023年1月、「次の戦争の最初の戦い・中国の台湾侵略机上作戦演習」を発表した。2年間かけて行った24回の机上作戦演習の総まとめだ。
演習の特徴は同企画の全てを軍関係者が担ったことだ。シビリアンである政治家の参加なしで、中国の台湾侵略に関して厳密に軍事的要素に基づいて予測した。なぜこのような形を取ったのか。米国防総省の過去複数回にわたる米中戦争の机上演習では、いつも結果に曖昧さが残った。肝心の軍事力の較量に関する情報は公表されなかった。情報秘匿の理由は米国にとって好ましくない結果が出たからだと推測された。
ランド研究所上席研究員のデイヴィッド・オクマネック氏は「米国対中露戦争では、我々はボロ負けだ」と語って憚らない。私が信頼する米国の軍事専門家の一人である元国防次官のミッシェル・フロノイ氏は「国防総省の机上演習を見れば現在の米国防力整備計画で将来、中国の侵略を防ぎ、彼らを敗北に追い込むことはできない」と語っている。
「中国が台湾に上陸し、占拠することはできない」
2021年3月には空軍中将のクリントン・ヒノテ氏が「米空軍の机上作戦演習は10年以上前から中国軍よりも米空軍の遠隔攻撃能力が弱体化してきたことを示していた。我々の敗北へのペースは加速している」と警告した。
国防総省の演習はたとえば20年先の米中軍事力の較量など長期的展望を想定して行われがちだという。敵方に知らせたくないという理由で不利な情報を公開しない。しかし、足下の現実よりも長期展望に注目するだけでは適切な戦略は生まれない。その意味でCSISが政治的要素を排除し、軍事的視点を基本に机上演習を行ったことの意味はあるだろう。
演習は中国が2026年に台湾上陸を目指して攻勢に出るとのシナリオをもとにした。米中双方は核を使わないという想定で、基本的、悲観的、楽観的、非常に悲観的、絶望的の5つのパターンで演習を行った。結論から言えばその全てで、中国は勝てなかった。
勝てないとは「中国が台湾に上陸し、占拠することはできない」だ。