中国系企業による日本の森林、水源地、農地などの買収が問題視されている。ジャーナリストの櫻井よしこさんは「中国企業は民間企業の形であっても中国共産党の支配下にある。日本の安全保障のために、国土や海を中国に奪われない法整備を実現しなければならない」という――。

※本稿は、櫻井よしこ『異形の敵 中国』(新潮社)の一部を再編集したものです。

木になっているリンゴ
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今、世界で一番危険な地域は、わが国の周辺

この数週間、つい視線が向かう地図がある。太平洋を挟んで、右に南北米大陸、左にユーラシア大陸があり、核保有国を赤く塗った地図だ。ロシア、中国、北朝鮮を中心にユーラシア大陸は赤く染まり、北米は米国が赤い色に染まっている。そのまん中、太平洋の左端にポツンとわが国日本が心細げに浮かんでいる。今、世界で一番危険な地域は大西洋・欧州ではなく、太平洋・アジアであり、わが国周辺なのだと実感する。

ウクライナへのロシアの侵略戦争で私たちは日々の戦況報告に気をとられ、世界のパワー・バランスの大変化で日本がどれ程危険な立場にあるかに気がつきにくい。ぼんやりしているわが国には断固とした国防への気概も備えもない。考えは甘く、制度は緩い。米国と協力して、国の命運が懸かる対中戦略の具体策を定め、憲法改正を含めて備えるときだが、そこまでの厳しい認識があるとは思えない。これでは中国が狙うのも当然だろう。

ウクライナ侵略戦争によるアジアへの影響

オースティン米国防長官は4月25日、ロシアが二度とウクライナ侵略戦争のようなことができないように、「ロシアの弱体化を望む」と語った。その言葉どおり、米国はロシアを衰退させる意図でウクライナにより深くコミットしつつある。

ウクライナの武器装備を補充、強化するための経済支援は、ロシアが全面的侵略戦争に踏み切った2月24日から4月21日までで30億5000万ドル(約3982億円)に上る(※2022年4月時点)。ところが4月28日、バイデン大統領は新たに330億ドル(約4兆3087億円)の追加支援を議会に要請した。2月以降の実績と合わせると総額約4兆7000億円、ロシアの2021年の軍事予算、659億ドル(約8兆6000億円)の半分を超える規模だ。

この侵略戦争で、ウクライナの側に立ち、プーチン氏を憎むのは自然な感情であり、だからこそ米国のウクライナへの肩入れもうなずける。同時にウクライナ戦争がアジアにどんな状況を生み出しつつあるか、日本の立場から憂えざるを得ない。それを象徴するのが日本の危機を表す冒頭の地図なのだ。