この言葉は非常に興味深い。そもそも西洋文明の原点はギリシャ文明で、さらにその原点は、ギリシャ哲学にある。ギリシャ哲学の中心は、人間の「徳」である。その「徳」は4つあり、「勇気」「正義」「中庸」「節制」であるが、ギリシャの哲学者アリストテレスは、その中心哲学を「中庸」に据えていたのだ。

中国では、アリストテレスより250年も前に『四書五経』が書かれている。四書の一つに「中庸」があるが、中身はアリストテレスの言う中庸の精神と同じである。

「俺が、俺が」という考えに支配され、自分さえよければ、ほかのものなどどうなろうとかまわない――。そんな極端な思考の中に真理はない。サミュエルソンは、言外に「真理は中庸にある」ことを説いているのである。

アダム・スミスは『国富論』の17年前に、『道徳感情論』で「経済の基本は社会の倫理、道徳が確立して初めて機能する」と明言した。経済学の巨匠ジョン・ケインズは、経済学を「モラル・サイエンス」と言った。彼の弟子のジョン・ヒックスも「経済は歴史で考えることが正しい」と述べている。

IISの講演では、このようなエピソードを織り交ぜながら、人間の傲慢さが招いた金融危機を反省し、中庸の精神で行動しなければならないということを述べた。

最後に、スペインの哲学者オルテガの「社会のリーダーたる者は、精神的貴族たれ」という言葉を引用して、今回の金融危機を「まさに100年に一度」の繰り返されざる出来事にすべきだと締めくくって、壇上から下りた。