『日本人とユダヤ人』は今から40年前に出版され、大ベストセラーとなった。だが、私にとってはただの流行本ではなかった。「生きることの素晴らしさ」を教えてくれた一冊なのである。
何のために生きるのか──。多くの人にとって、永遠のテーマではないだろうか。私が最初にこの哲学的で難解な命題にぶち当たったのは、高校生のときだった。
当時の私は、カミュやサルトル、ニーチェなど実存主義の作品を読み漁っていた。しかし、いくら考えても答えは出ない。ロジカルで、一つの結論が出る世界のほうが楽なのではないか。そういう思いから、大学では理科系の道を選択した。
大学に入学し、修士課程へ進むころ、ふたたびこの命題に取りつかれることになる。ときはまさに70年安保の真っ只中。“政治の季節”の中で、学生たちは熱に浮かされたように天下国家を論じ合っていた。私自身は政治活動に没頭することはなかったが、「日本は、自分は、この先どうあるべきか」と思い悩む日々が続いていた。
ちょうどそのころ手に取ったのがこの本だった。なぜユダヤ人たちは短期間でイスラエルという国家を築くことができたのか。失われたはずの言語であったヘブライ語を復活することができたのか。
ユダヤ人には優秀な人物が多いというのも、私には謎だった。物理学のアインシュタイン、精神分析で知られるフロイト。また、芸術分野に目を転じると作曲家のマーラー、画家のシャガールらがいる。さらに銀行家のロスチャイルド、政治家ではキッシンジャーと、まさしく綺羅星のごとくという表現がふさわしい。私はその秘密を知りたくなった。そして、できることなら現地に行って、自分の目で確かめてみたいという強い衝動を抱いた。