交渉のあり方も大きく異なる。これは、ユダヤ人だけでなく、アメリカ人や中国人、インド人にもいえる。

私は長年、CD-RやDVDなどの光ディスクの開発に携わってきた。その過程で、台湾、中国やインドなど外国人のビジネスマンと幾度も交渉をする機会があった。

そこで痛感したのは、日本人がいかに論理的でないかということだった。中国人やインド人たちは、ロジックを積み上げて話を展開する。そのうえで明確な主義主張を掲げて臨んでくる。重要な事柄については、必ず契約書や覚書を交わすことも忘れない。

一方、日本人には「言外の言、法外の法」といった考え方が根付いている。「あいまい」をよしとし、信頼関係で何とかなるだろうと考える傾向が強い。「契約」という概念があまりに希薄なのである。

この本の著者である山本七平は、「法外の法」の基本は日本人がよく使う「人間性」という言葉にあると指摘している。日本人には人間としてかくあるべきだという暗黙の規範があり、その規範の中で交渉を行おうとする。しかし、外国人相手には通用しないのだ。

仕事の舞台がグローバル化していけばいくほど、己を知り、相手を知らなければならない。ビジネスにおいて国境のない現在だからこそ、もう一度読まれるべき本ではないだろうか。

小林喜光氏厳選!「役職別」読むべき本

部課長にお勧めの本

『21世紀の国富論』原 丈人著、平凡社

日本のこれからの成長戦略をわかりやすく描いた作品。サブプライム問題によって崩壊したこれまでの資本主義は今後どこへ進むべきか──。ミドルならば、経営者になったつもりで、真剣に考えなければならない。

若手、新入社員にお勧めの本

『二十歳のエチュード』原口統三著、ちくま文庫

戦後まもなく入水自殺した若き一高生が書いた一冊のノートを本にしたもの。今読むと青臭い内容だが、読後に疲れがとれる感じがするのが不思議。物事をうがって見ず、純粋に突き進むことの大切さを教えられる。

※すべて雑誌掲載当時

(岡村繁雄=構成 的野弘路=撮影)
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