私は『日本人とユダヤ人』を今でも枕元に置き、折に触れて読み返している。ここまでは個人的な体験を述べてきたが、ビジネスマンにとっても多くの学びを得られる本である。特に外国人とビジネスをする機会のある人にとっては、今も色あせない内容が書かれている。

『日本人とユダヤ人』
オリジナルの単行本初版は1970年に山本書店より刊行。以来、売り上げ累計300万部超の戦後史に残る大ベストセラーに。著者の存命中は「イザヤ・ベンダサン」というペンネームで出版されていた。同書発売以降、類似のタイトルが続出するなど、その後の「日本人論」に大きな影響を与えている。山本七平著/初版2004年/角川oneテーマ21

海外ビジネスに携わる人にとって重要なのは、世界観と歴史観を持つことである。異なる民族のことを知ることも大切だが、一方で祖国・日本のことも理解しなければならない。

この本は哲学的な示唆だけでなく、比較文化論、日本人論としても優れている。

日本人とユダヤ人は、あらゆる点で対照的な民族といっていい。本には日本人は「安全と自由と水はタダ」と考えがちだ、と書かれている。島国であり、他国から侵略された経験が多くはない。国土は緑におおわれ水も豊富だから、そう考えるのもいたしかたないことだろう。

ところが、ユダヤ人はセキュリティに金をかける。本書にはニューヨークの一流ホテルに住むユダヤ人の話が出てくる。長期宿泊ではなく、そこに居住しているのだ。だが、服装といい、身の回りの品といい実に質素なのである。それでも高い料金を払って住む理由は「安全だから」にほかならない。

一流ホテルなら国賓も泊まるし、著名人も滞在する。万一事故があると大変なことになるから、ニューヨーク市警が常時警戒を怠らない。ホテル側が契約している警備会社もトップクラスである。彼はそこに居住することで、自分の命や財産を守っているのだ。

ユダヤ人といえば、誰もが祖国を喪失した漂流の民というイメージを持つだろう。加えてアウシュビッツの悲劇もある。第2次世界大戦後の1948年、念願のイスラエル建国が実現されたとはいえ、それまで2000年もの間は、世界の各地に散らばり、ずっと耐え続ける歴史だった。そんな環境が彼らに高い安全意識と不屈の精神を培わせたのだろう。