私は、もともとそれほど読書家というタイプではありません。そんな私が、運命的に出合った一冊が司馬遼太郎の『菜の花の沖』という小説です。
1999年、日本石油と三菱石油が合併した年のことです(合併後、日石三菱となり、のちに新日本石油と改名)。当時、石油産業は石油製品の輸入自由化の影響等もあって、収益面で大変苦しい状況にありました。
今、振り返ってみれば、99年は石油需要が天井を打った年となりました。当時は、自分たちがまさに分岐点の只中にいるなどとは思いませんでしたが、化石燃料による環境問題に対する世界の目も厳しさを増しており、いずれ石油需要が落ちるだろうことが容易に想像できるような閉塞感がありました。だからこそ、当時のトップが合併に踏み切ったわけですが、日本石油に入社して以来ずっと経理・財務を担当していた私も数字を通して状況を認識していました。マーケットを主導するには規模を拡大することが必要なんだなと、あれこれ思いをめぐらせつつ合併を迎えました。
64年に私が入社したとき、エネルギー源としての石油需要は世界で70%以上を占めており、他のエネルギーとは比べものにならないレベルでトップを独占していました。
そんな古きよき時代に石油業界に飛び込んだ者としては、「今までのように、ただ目の前の仕事を懸命に達成していればいいという時代ではなくなった」と感じ、何か気持ちの「よりどころ」はないものかと考えるような日々でした。
そんなある日、旧三菱石油出身の経理担当者とお酒を飲んだときのこと。彼が大変な読書家だとわかりました。そこで私は、彼に「何か面白い本、あるかね?」と尋ねてみたのです。「どういう本が読みたいのですか」と聞くから、「痛快物かな。とにかく気持ちがスッキリするものがいい」と答えました。