苦肉の策で生み出された「複線型人事」
そしてもう一つ。これも多くの日本企業が採用する複線型人事についても触れておこう。
高度経済成長を経て、日本と多くの日本企業は低成長時代に突入した。成長が鈍化するということは、企業の売上が伸びない、既存の組織が大きくならない、新規の組織も立ち上がらない、社員数も増えないということを指す。そうすると組織を管理する、いわゆるライン長という役職の数は、当然ながらせいぜい現状維持か、もしくは減っていく基調になった。
そこに来てさらに、能力という認定基準によりライン長になった管理職が、能力に置いてその職を解かれることもない。その一方で、毎年昇格要件を満たした人材がポストの空きを今か今かと待ちわびている。ポストもないのに、「そろそろうちの人材を、上にあげてくれないか」と人事部が部門長などから、突き上げられることを昇格圧力というが、このような状況に対応すべく考え出されたのが役職定年制度と複線型人事だ。
役職定年は年齢によりバッサリ役職を解くという制度であり、複線型人事は、昇格して部長や課長などライン長になる出世コースと、専門職として活躍するコースを分ける仕組みだ。
ライン長というポストは企業の組織に対応するものであり、勝手にポストを増やすことはできないが、専門職は専門性というものの定義次第で、いくらでも内部昇格させることができる。ちなみに、そのような専門職人材は、対外的にはライン部長と同格の担当部長や、ライン課長と同格の担当課長などと呼ばれることが多い。
なぜ「働かないオジサン」は量産されたのか
そして、このような複線型人事にも変遷がある。複線型人事が考え出された当初、専門職とは率直に言えば「ライン長にはなれなかった人材」という位置づけであり、ライン長と概ね同じように処遇される専門性というものを、厳密に求められることはなかった。ただ、給料は上がるため、それが働かないオジサン、オバサンのうま味となり、役職(重要なポスト)が与えられない彼ら、彼女らのプライドをも満たしてきた。
だが、現在に至るまでに、単に「ライン長にはなれなかった人材」を専門職として処遇し続けることが、当該企業のグローバル市場競争力という観点からも、また総額人件費を適正に管理して配分するという観点からもできなくなった。
このような背に腹は変えられぬ問題を解決すべく、企業は厳格に再定義した「専門性」というものを満たさない人材を、管理職(相当)にはしないと決め、それを制度で担保したのである。これは、たとえば野球というスポーツ競技において、「ベンチを温めるだけの高額報酬選手はいらない」というメッセージに他ならない。