高齢者の医療費をめぐり、自民党と維新の会が7日、窓口負担を見直す方針で合意した。医師の木村知さんは「“原則3割負担”の明言こそ見送ったものの、“高齢者の負担を増やすことで、現役世代の負担軽くする”という方針自体に変化はない。一見、明るい話に思えるが、ここには重大な見落としがある。このまま進めば、むしろ現役世代の負担を増やすことになりかねない」という――。

社会保障制度改革の骨子で合意し、署名した文書を手にする自民党の田村憲久元厚生労働相(中央)と日本維新の会の梅村聡氏(左から2人目)=2026年7月7日、国会内
写真=時事通信フォト
社会保障制度改革の骨子で合意し、署名した文書を手にする自民党の田村憲久元厚生労働相(中央)と日本維新の会の梅村聡氏(左から2人目)=2026年7月7日、国会内

高齢者の1割負担は「不公平」という声

昨今、しきりに「現役世代と高齢者」といった世代間の公平性が議論になります。

皆さんは、「高齢者は優遇されている一方、現役世代は負担を強いられわりを食っている」と感じているでしょうか。それとも、「格差」は年齢とは関係ないのだから、ことさら世代間の対立をあおるべきではないと考えているでしょうか。

7月7日、自民党と日本維新の会は、「現役世代との間で、年齢によらない公平な応能負担を実現する観点」から、高齢者の医療費窓口負担を見直す方針で合意し、年末までに一定の結論を得たうえで、2026年度末までに改革工程表を策定する方向になったと報じられました。

ここでは、かねてより維新が求めていた「原則3割」という文言の明記は、とりあえず見送りになりました。

ただいずれにせよ、この方針からは、高齢者の窓口負担割合が現役世代よりも低く設定されていることを「不公平」とし、高齢化社会のもと増大する高齢者にかかる医療費の財源に現役世代の保険料が費やされている現状を是正すべき、という理屈が見えてくることに変わりはありません。

ここで私たちが気をつけなければならないのは、はたして高齢者の負担をふやせば、現役世代の負担は本当に減るのか、という点です。

なんとなくイメージ的には現役の負担を高齢者につけかえることで、シーソーのバランスがとれて公平になるように思えてしまいがちですが、現行の制度を大きく変更するわけですから、本当にその通りになるのか十分に検証しておかなければなりません。

じっさい、この高齢者医療費負担の見直し方針に対しては、全国保険医団体連合会(保団連)が「2580万人の命・健康に破滅的影響を及ぼす」と抗議し、日本医師会の松本吉郎会長も「非常に乱暴だ」と懸念を表明しています。さらに松本会長は7月2日、「70歳以上の窓口負担『原則3割』・外来特例の廃止」は「到底容認できない」と述べています。

出典=保団連(全国保険医団体連合会)@hodanren  2026年6月30日付ポストより 
出典=保団連(全国保険医団体連合会)@hodanren  2026年6月30日付ポストより 

医療現場に近い側からは、すでに強い警鐘が鳴らされているのです。

私も現場のひとりとして大きな懸念を抱いています。

現役世代は救われるのか

とくに大きな影響を受けるのは、複数の慢性疾患を抱えていて、定期的な外来通院による治療および検査を必要とする多くの高齢者です。

もちろん裕福で現役並み所得のある高齢者であれば、現在でも3割負担ですので大きな影響はありません。問題となるのは収入が現役世代におよばず、現在1~2割の窓口負担をようやく支払って通院を続けている人たちです。

これらの人たちは、今後も歳を重ねていくわけですから稼働能力が劇的に向上して収入が現役並みに急増することは、まず期待できません。しかも、医療の必要性は減るよりむしろ増していくことの方が多いのです。

もし、このような人たちにまで将来的に「原則3割」に近い負担増が及ぶことになれば、治療をあきらめて中断してしまうことも出てくるでしょう。定期的診察をしていればとらえることができたはずの新たな疾患の発見が遅れ、重症化してはじめて見つかる、ということにもなりかねません。

そうなれば、せっかく高齢者の負担を増やして、保険料負担や公的負担の抑制をいくらか図れたとしても、結果として重症化や入院が増え、総医療費そのものがかえって増大してしまうという皮肉な事態さえ起きかねないのです。

そもそも、維新が求めてきたような「原則3割」とすることで、現役世代の保険料負担は年間にして、どれだけ軽減されるのでしょうか。また、このほかにも現役世代の負担を減らす方略は考えられているのでしょうか。