新端末を磨き上げ5万人の武器に

社長になって満1年、4月に「新統合戦略」をスタートさせた。そこで「3つの革新」を打ち出す。全国すべての営業職員に新たに開発した携帯端末を配布し、柔軟性を欠いた商品体系を見直して、複雑化した契約手続きなどのペーパーレス化を進める。どれも、お客の便利さを大きく向上させるためだが、それだけではない。営業職員たちの負担を軽減し、より現場力を発揮できるゆとりを生むことも狙っている。

10年余り前、長岡で出過ぎた真似をしかけたとき、「お客さまのそばにいて、長い間ずっとお付き合いさせていただく私たちに、任せて下さい」とたしなめてくれた女性は、新しい携帯端末に馴染んでくれただろうか。お客のお子さん、その配偶者、そして孫と、樹木の枝のように広がる家族の将来設計を、端末の画面をお客にみせながらニーズに応えているだろうか。主契約と特約のサービスを切り離し、自由に選べる商品体系にしたことは、喜ばれているだろうか。書類に記入したり、捺印したりしなくてもよくしたことに、お客は何と言っているだろうか。

端末には最初のうち「ちょっと、使いづらい」との声も出た。現場の意見を集めて、この夏に改良を進めた。現場力を高める武器として、使ってもらいながら磨き上げていく。そこで、5万人の営業職員の目が、経営陣の本気度を計っている。

「人主以二目視一國、一國以萬目視人主」(人主は二目を以て一国を視、一国は萬目を以て人主を視る)――君主は自分の2つの目だけで国の様子をみているが、国では万人の目が君子の言動をみている、との意味で、中国の古典『韓非子』にある言葉だ。上に立つ者は、自分でみたことだけで判断するのでは狭く、人々の批判や提案を広く受け入れなければいけない、と説く。営業職員を核とする社内の思いを広く受け止めて動く筒井流は、この教えと重なる。

ネット時代への対応も、同じだ。無機質なやりとりで終わらせずに、アクセスしてくれたお客のところに営業職員が足を運ぶ。いま、年間に約7000件の成約。業界でトップ水準だ。ネット販売の生保が単一の死亡保障保険に絞り込んでいる例が多いのとは違って、ネットでも多様なニーズに応える品揃えにこだわっていく。サービスを深掘りすれば、ニーズは限りなく湧いてくる。

例えば、医者に何日通い、どれだけ医療費を払ったら、どの部分に保険金が出るのか、どういう場合には出ないのか。お客はよくわからず、請求し損なっているケースもあることだろう。そこを、簡単に相談できて、わかりやすく助言してくれるサービスが付いていれば、その保険を選ぶ人が多いはずだ。営業職員が持ち歩く端末をフルに活用していく先に、そのゴールが待つ。

深掘りを担う人材の確保と育成。結局、それは、現場に負うところが多い。どこよりも魅力ある職場、何よりもやりがいのある仕事。その条件を整えるのが経営者の責務だ。営業現場の面々は、しっかりと、経営陣の言動をみているだろう。「以萬目視」の「萬目」こそ、日本生命の大いなる財産だと、確信している。

(聞き手=街風隆雄 撮影=門間新弥)
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