明日、来月、来年…未来を考えるのに忙しいか

理由④ 好きなことをしている実感を持つ

先日乗ったタクシーの運転手さんの話です。彼は20代のころからずっと天涯孤独の身であり、60代の現在まで企業や組織に属することもなく、個人タクシーで生計を立ててきたそうです。「孤独を感じないのですか?」と、たずねたところ、「まったく感じたことがない」と答えます。

「この仕事が好きで、毎日いろんな人に会えますから、孤独なんて感じませんよ」

好きなことをしている実感を持つと、人は孤独感から逃れられます。

理由⑤ 目標を持つ

1936年にベルリン・オリンピックが開催された際、この大会のドキュメンタリーを『オリンピア』という、ナチスのプロパガンダ映画として残したレニ・リーフェンシュタールという女性の映画監督がいます。

美人俳優でもあり、「ヒトラーの恋人」ともいわれた人でした。戦後、当然ながら彼女は逮捕され、裁判にかけられるのですが、無罪となります。

その後、彼女はドキュメンタリー映画の監督として、表舞台に復活を果たします。そして2000年、97歳のときスーダン内戦の撮影をした際、乗っていたヘリコプターが攻撃を受けて撃墜されますが、奇跡的に助かりました。

そして彼女は、100歳になってからもなお、『ワンダー・アンダー・ウォーター(原色の海)』というダイビングのドキュメンタリー映画を撮り、喝采を浴びます。

レニが孤独感を持つことがなかったかどうかは、本人でなければわかりませんが、彼女は、「ナチスに協力した映画監督」という負の評価のままで一生を終えたくない気持ちが大きかったのでしょう。汚名返上のためにはいっときも無駄にはできないと言わんばかりに、人生の最期まで挑戦を続けました。

ちなみに、レニには30歳以上も若い男性のパートナーがいて、彼は30年以上にわたって彼女を支え続け、彼女が101歳のときに結婚しました。彼女が亡くなったのは、そのすぐあとだったそうです。

医学的に解明することは難しいのですが、レニ・リーフェンシュタールのように、人生を通じて何かの目標を追いかけている人は、孤独感を持つことが少ないことは確かだと感じます。

さらに一例をあげると、1932年にノーベル生理学・医学賞を受賞したチャールズ・シェリントンという科学者は、私の先輩がオックスフォード大学で彼に会ったとき、95歳という年齢にもかかわらず、過去のことは一切語らず、明日何をするか、来年何をするかという先のことばかり話していたそうです。

そういう人は未来のことを考えるのに忙しく、過去と現在を比較して孤独感に陥ることは少ないと思います。

目標は、一生をかけて成し遂げるような大げさなものでなく、明日、来月、来年達成できるようなことでいいのです。趣味でも旅行でも、「これをやりたい」「あそこへ行きたい」という確かな目標を持つと、それが孤独感を遠ざける手段になります。

ちなみに、私の場合は、本を書くという目標があるからか、孤独感にさいなまれることは、ほとんどありません。

でも、「高田先生の本は売れないので、もう出しませんよ」なんて出版社から断られでもしたら、孤独感という奈落の底に突き落とされたような気がするでしょう。いくら家族やお金があって、好きな研究をしていたとしても、孤独感を覚えるようになる可能性があるわけです。

これを避けるには、本を出し続ければいいということになります。でも、今のように頻繁に本が出せる状態が永久に続く保証はありません。

だから、ずっと本を出し続けられるよう、ときに編集者におべっかも使って(笑)、「本が出せなくなるかもしれない」という恐怖と闘い続けている面はあります。

食べることは「最も簡単に幸福状態を作りだせる活動」

理由⑥ 健康である

どんなに目標を達成しても、どんなに他人が羨むような喜ばしいことがあっても、世間に認められていたとしても、健康を害すると、人はとたんに孤独感を抱くようになります。

著名な禅の老師、Sさんの話です。

S老師は、大勢の人に、「幸せとは何か」を説き、人間的にも優れ、誰からも尊敬され、すべてを悟ったかのような方でした。その聖人ぶりを見れば、誰もが孤独感とは無縁だと思ったでしょう。ところがそのS老師は晩年腸閉塞を起こし、病院に運ばれます。そして病院中に響き渡るような大きな苦悶の悲鳴をあげながら、お亡くなりになったのです。

しかも、「この痛みをなくしてくれたら、悟りなんかいらない!」と叫びながら――。

「禅を究めた」とされていた彼の最期の瞬間に、心の安寧は、まったくなかったのです。

「痛み」は、他人が共感しにくい感覚の一つです。

S老師のように、大声で悶えるほどの大病をしないまでも、年を取ってから誰もその痛みをわかってくれないような病を患ってしまえば、人は少なからず孤独感を募らせていくことになります。

それはやがて、死の恐怖や体が動かなくなる恐怖、そして認知症を発症して自分が自分でない存在になってしまう恐怖などにつながっていきます。

だから、健康であることは、孤独感を抱かないための、条件の一つなのです。

理由⑦ 腸内細菌のバランスが整う

最近の医学の研究でわかってきたのは、「人間の腸内細菌が、孤独感を作りだすことがある」ということです。

腸内細菌とは、私たちの腸の中に棲んで消化の手伝いをしている細菌です。ヨーグルトに入っているビフィズス菌や乳酸菌などがその代表で、「善玉」と「悪玉」、そして「日和見」があることを知っている方は多いでしょう。

そんな腸の細菌が、孤独感という「人の感情を左右する」ことなんてできるのでしょうか?

「できる」のです。腸の細菌はさまざまな手段で脳に情報を送り、ドーパミンなどの脳内ホルモンを分泌させて、感情を操作することがわかってきました。社会的な状況や人間関係の影響とは別に、私たちは腸内細菌の影響で、孤独感を増すように操作されている可能性があるのです。

いったいなぜ、腸内細菌はそんなことをするのでしょうか?

高田明和『65歳からの孤独を楽しむ練習 いつもハツラツな人』(三笠書房)
高田明和『65歳からの孤独を楽しむ練習 いつもハツラツな人』(三笠書房)

考えられるのは、体の衰えや栄養不足に対して、腸内細菌が危険信号を送っているということです。宿主である人の生命に危険が迫れば、腸内細菌の存続にもかかわります。そのため腸内細菌は、まず人の心理状態を不安にさせることによって、私たちの落ち込みや淋しさを強くさせます。

すると、孤独感から人恋しくなって誰かと会う機会が増えて、具合いを気にかけてもらえたり何かを食べたりするチャンスも増えるでしょう。食べ物を補給すれば腸内の栄養状態はよくなり、腸内細菌が活発に活動できる環境ができます。

また、食べることは、脳に幸せを感じるホルモンを分泌させ、「人間にとって最も簡単に幸福状態を作りだせる活動」でもあります。それゆえ腸内細菌は、ヒトに「食べる行為」を促すために、あえて孤独感を作りだしているのです。

いずれにしても、腸内細菌のバランスが整うと、孤独感は消えます。孤独感は、環境や心理学的な要素ばかりでなく、食事からもコントロールできるのです。

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