「ビジョン」や「パーパス」といった経営理念を掲げる企業が増えてきた。400以上の企業や官公庁に組織変革支援を行ってきた沢渡あまねさんは「掲げるだけでは経営陣や社員の行動は変わらない。特に『5つの“ない”』に当てはまっている企業は要注意だ」という――。

※本稿は、沢渡あまね『コミュニケーションの問題地図』(技術評論社)の一部を再編集したものです。

仕事のチーム
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ビジョンを掲げるのは同じゴールを目指すうえで不可欠

ビジョン、ミッション、バリュー、パーパス……これらを掲げる企業や組織が増えてきました。経営理念や経営方針ととらえてもいいと思います。えっ、「そんなものは当社にはない!」ですって。それ自体が大問題ですので、そのようなみなさんもこの先を読み進めてください。

話を戻しましょう。最近では、パーパス経営なる考え方も重要視されつつあります。人材や働き方の多様化が進む時代、他者とのフラットな協業(コラボレーション)が求められる時代。組織や立場や専門性や価値観が異なる人たちとつながり、同じゴールに向かって走っていくためには、ビジョン、ミッション、バリュー、パーパスなどの「目指す姿」を示して、共感形成をしていく、共感してくれる人たちを巻き込んでコトを起こしていく取り組みは不可欠でしょう。

ビジョンを「作っただけ」の残念な例

一方で世の中を見回してみると、次のようなトホホな状況も散見されます。

・キレイなビジョン、ミッション、バリュー、パーパスの文章を作って、はいオシマイ。社長室の額縁に飾られているだけ、毎朝ただ唱和させられるだけ、経営陣の行動も社員の行動も何も変わらない

・「ITで世界を変える」なるビジョンを掲げているIT企業。なのに、仕事のやり方は恐ろしいほどアナログかつ重厚長大(いきなり営業電話かけてきたり、見積りや契約手続きなど紙の書類の提出を取引先に強要したり。「テレワーク⁉ なにそれオイシイの?」)

・「新規事業の創出」を事業部のバリューとしているにもかかわらず、みんな既存事業の目先の仕事で手いっぱい

・「共創」を掲げる大手製造業の購買部門の課長。お取引先とのミーティングに平気で遅刻し、さらに開き直ってタメ語で一方的な値引き交渉をする(まるで共創の姿勢が見られない。あるいは共創=なれなれしくすることと勘違いしている⁉)

・「MaaS(Mobility as a Service)へのビジネスシフト」を中長期の目標に掲げる自動車会社。社員は、事業所の出社勤務と、自宅でのテレワーク以外の働き方しか認められない(移動しながらさまざまな場所で仕事や生活をする体験をせずに、利用者目線でMaaSを考えることができるのでしょうか?)

・「ワーケーションによる関係人口の創出」を掲げる地方自治体。ところが、行政職員がワーケーションを体験したことがない