そのビジョンは社長室の額縁の中で埃をかぶっていないか

モヤモヤが募った担当者。組織や部門が掲げている理想と、やっていることが食い違っている。これでいいのかと、ある日部長や課長に問うてみたところ……。

「それはそれ、これはこれ! 余計なことを考えなくていいから、キミたちは目先の仕事だけに集中しなさい」

元も子もない回答。階層間の景色もまるで合わない。こうして、キレイに創られたビジョン、ミッション、バリュー、パーパスの文章だけが、今日も誇り高く社長室の額縁の中で躍り続けます。埃をまといながら。

「ううむ、当社はこのままでほんとうにいいのだろうか、大丈夫なのだろうか……」

さすがにこの状況を問題視した経営陣。

「当社のビジョン、ミッションにそぐわない仕事のやり方や慣習を挙げてくれ! 社員のみなさんの忌憚きたんのない意見を聞きたい」

覚悟を決めて社員にヒアリングすることに。

と、ここまではいいものの、そのやり方が……これまたなかなか味わい深い。

・社員の意見は、各部の部長が事前に取りまとめおよび承認のうえ、所定のExcelファイルに記入し、暗号化したうえで、経営企画室に提出すること

・経営陣との意見交換会に先立ち、経営企画室による事前ヒアリングを実施します

レガシー大企業風味たっぷり!

でもって、次の瞬間、部長に手招きされる若手メンバー一同。

「経営企画室向けの、事前ヒアリング用の資料を作ってもらえる? 作ったら、僕に報告してください」

部長の他人ごと感と言ったらもうね。こうして、細々とした資料作成や報告作業が若手に降ってくる。

「あの……そういう仕事のやり方や慣習がヤバいのではないでしょうか?」

ビジョンが宙に浮いてしまう5つの「ない」

まるでキレイごとの羅列だけで、社長や役員にとっても、中間管理職にとっても、社員にとっても他人ごと。ビジョン、ミッション、バリュー、パーパスが宙に浮いてしまうのはなぜでしょうか? 5つの「ない」でひも解いてみましょう。

①魂がこもっていない

まずもって、ビジョン・ミッション・バリュー・パーパスの文章に魂がこもっていない。

一部の経営陣の思いだけで創られた、あるいは経営企画や広報担当者と外部コンサルタントや広告代理店だけで創っている。社員など、メンバーの声がまるで反映されていない。

あるいは、「顧客第一主義」「イノベーションを起こす」など、こう言ってはナンですが、どこの企業でも言っていそうな、ありきたりのキーワードやメッセージが綴られているだけ。それでは、組織のメンバーが(あるいは創った当事者でさえも)腹落ちせず、他人ごとになってしまっても無理はありません。

丸めた紙をゴミ箱に捨てる人
写真=iStock.com/ilkercelik
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